インディーズとは違う、もう一つのアマチュア音楽流通

私が初音ミクを知ってから、ニコニコ動画を良く見るようになったのですが、その時気が付いたのが、自分がそれまで知っていたポップス市場とは別の市場が日本に存在していることです。

私がオリジナル版『Re:Package』を買ったのは、「とらのあな」という同人誌を主に扱う店なのですが、ここではCDを沢山扱っています。それらのCDは、アマチュアミュージシャンが作ったもののようです。これらは、「同人音楽」と呼ばれるようです。

私はそれまでタワーレコードなどのCDショップでCDを買っていたので、そのような音楽流通が存在していたことを知らなかったのですが、自分でCDを作って、同人誌と同じように、即売会で販売したり、「とらのあな」のような同人関係ショップに委託して売るCDがかなりあるようです。

同人音楽は、二次創作も多いようですが、オリジナルもあります。私は、つい先日Sasakure.UK さんの『Kaleido*Mixture』というアルバムを通販で買ったのですが、このアルバムも音楽ジャンル的には、フューチャーポップやチップチューンに入るものです。このCDもコミケで販売されたということで、同人音楽ということになります。

livetune のCD も、音的にはフューチャーポップですが、ニコニコ動画というアニメ・漫画的な場所が発祥の地であるせいか、「とらのあな」に委託して販売するという同人音楽的な流通で販売されました。そのため、同人音楽という流通を選ぶかどうかは、音楽ジャンルというよりは、アーティストが、オタク的な市場で作品を作ったり、流通させようと思うかどうかで決まるようです。

面白いのは、同人音楽が、あくまでアニメ・漫画・ゲームと同じ流通経路で販売されることです。基本的にアマチュアミュージシャンが自分のCDを販売する場合、ライブハウスや路上で直接配布、または販売するか、インディーズレーベルと契約して、CDショップを通じて販売すると思います。つまり、音楽を演奏する、あるいは販売する場で、CDが販売されます。

しかし、同人音楽は、クラブイベントで販売されることはあるのでしょうが、CDショップで販売されることはありません。そのため、同人音楽が、アニメ・漫画・ゲームの同人作品に関心がない音楽ファンに知られる可能性は、ほとんど皆無だと言って良いと思います。そのため、同人音楽は、アマチュア音楽の中でも、極端に孤立した分野だと言えると思います。

ただ、初音ミクの楽曲を色々聴いていると、おそらく同人音楽の方にも、良い音楽を作っている人が沢山いるのだろうとは伺えます。普通の音楽ファンが、そのようなアーティストの楽曲を知る機会がないのも勿体ないと思います。

初音ミク界隈を見ていると、現在の日本のポップミュージックで、何らかの盛り上がりが感じられる分野は、ここしかないのではないかと感じます。そして、初音ミクの盛り上がりの背景にあるのは、オタク市場だろうと思います。オタク市場は、日本社会全体の中ではマイナーですが、サブカルチャーの中では、圧倒的な市場規模の大きさと作り手及び消費者の数の多さを誇っていると思います。そのため、オタク市場の音楽部門の一部である初音ミクは、弱小サブカルチャーであるロックやパンク、ヒップホップを凌駕する勢力を得るようになっても不思議ではないようにも思えます。

同人音楽は、インディーレーベルすら通さなくて良いフットワークの軽さ、ネットという新しい音楽流通経路との親和性など、旧来の音楽流通と比べると、遙かにこの10年以来進行している音楽流通の変化に上手く適応しているように思います。正直、CDショップを通じた音楽の販売は、インディーズ、メジャーに限らずジリ貧になることは明らかなので、もしかすると同人音楽の方から、音楽流通の大規模変化が起こるのかも知ません。

ただ、私はまだ同人音楽のことをほとんど知らないので、今後色々と調べていきたいと思っています。

(追記: 8/28)

上記の文章の用語の使い方が不正確だったようなので、以下のはてなブックマークのコメントをご参照下さい。

noitseuqさん: 売り場が違うだけでインディーズと同人は一緒。例えばアニメの分類でも作品の見た目でしか判断してない。

pphさん: メジャーに所属していない全てのアーティストは「インディーズ」デスよ。その中には独立系レコード会社と契約してるのも居れば、自費でレコード出してるのも居る。「同人」の定義も微妙な希ガス


noitseuqさん、pphさんご指摘ありがとうございました。