日本におけるドイツ年2005/2006

すでに2004年から、「日本におけるドイツ年」(追記: さっきまで日本とドイツを逆に書くというとんでもない間違いをしてしまったので修正しました。どうも、すいません。)という大規模な催しが行われています。この催しの趣旨は、以下の通りです。


「日本におけるドイツ年2005/2006」の主眼は、日本の皆様に、現代の生活や多様性といった切り口から捉えたドイツ像をお伝えすることです。

そのため、古き良きドイツのイメージの向上を図るとともに、次の課題にも積極的に取り組みます。

ライフスタイル、デザイン、ファッション、コンシューマグッズ等の分野におけるドイツの魅力発信。

欧州有数の科学技術立国としてのドイツ。日本の経済パートナーとして大きな潜在力を持つ経済大国ドイツの紹介。

旅行先や留学先、仕事や生活上の拠点としてのドイツのメリット等です。



一応、ドイツのステレオタイプだけではなく、現代のドイツの様子も伝えようと言う趣旨らしいですが、実際に催し物のリストを見てみると、やはりかなり偏っているという気はします。政府機関が企画しているので仕方がないのでしょうが、やはり伝統的であるにせよ、現代的なものであるにせよ、ポップカルチャーではなく、高踏的なものばかりが紹介されるようです。


私が一番気になる音楽に関して言えば、予想通りといえば予想通りですが、クラシックやバレエ、オペラなどが圧倒的大多数を占め、あとはクラブミュージックが少し紹介されるだけです。つまり、こちらで人気がある普通のポップミュージックが全然紹介されません。

すでにご紹介したように、ドイツにおいてもクラシックはお年寄り以外には余り聴かれない音楽で、普通の人にとっては余り馴染みがある音楽ではなくなっています。日本では、ドイツといえばクラシックというイメージがあるるので、おそらく、そのステレオタイプをそのまま反映したのだと思います。

また、ドイツ=テクノ、あるいはクラブミュージックというイメージもあると思いますが、日本で取り上げられるようなテクノは、基本的にアンダーグラウンドのもので、大都市に住んでいる一部の若者以外には、やはり馴染みのない音楽だと思います。チャートに上がるようなダンスミュージックのほとんどは、10代の少年少女を対象にした際物的なものです。

まあ、こういった催しでは、自国の良い部分というか、高踏的な部分を見てほしいと見栄をはったり、相手の期待に応えたいと言うことで、ステレオタイプ的な期待に答えるようなものばかりが紹介されることになるのでしょうが、このような紹介の仕方は、ドイツの現在の大衆文化を誤解させることになると思います。


まあ、ドイツで紹介される日本も、伝統文化とアニメ、マンガという極めて偏ったものが多いので、こういった紹介の仕方は、ありふれたものだとは思います。

たとえば、この間arte というフランス、ドイツが共同で制作しているテレビ局での、日本のアニメ、マンガ特集で、紹介されていたのは、評論家受けするタイプのマイナーな作品や作家ばかりでした。アニメは、押井守監督の攻殻機動隊沖浦啓之監督の人狼が放映され、スタジオジブリが紹介されました。

また、紹介された漫画家は、谷口ジロー古屋兎丸魚喃キリコという、普通の日本人は存在すら知らないマニアックなラインナップでした。


そうやって、偏ったものばかりが紹介されることで、相互の国に対する誤解が広がっていくとは思うのですが、おそらく、日本の情報を欲するドイツ人、あるいはドイツの情報を欲する日本人は、共に自分が相手の国に抱いているステレオタイプが、予想通りに反復されることを望んでいるところもあるのでしょうから、仕方がないのだろうかと思います。日本人、あるいはドイツ人が、相手の国のことを正確に知ったとしても、だからどうしたということはないので。


ただ、せっかくこういう機会なので、ゲーテ・インスティチュートも頑張って、日本でも売れそうな歌手やミュージシャンをテレビの音楽番組に出したり、ロックフェスティバルにブッキングしたりして、日本のレコード会社の契約をもぎとるぐらいのことはしても良かったのではないかと思いました。ドイツの音楽市場も、縮小傾向にあるので、これを機会に、世界第二の巨大市場である日本市場を、新規開拓しようという素振りぐらいしても良かったと思います。


ただ、個人的には、おそらく財政的に厳しいであろうクラシックの演奏家や、現代美術家、アートフィルム作家などが、(おそらく)国からお金を援助してもらうことは、非常に良いことだと思います。世の中には経済原理とは相性の悪い分野があり、そのような分野に関しては、ある程度公的に扶助することは、文化の多様性を考えれば必要であると思うからです。まあ、今回の催しの趣旨とは、直接関係がありませんが。


と筆が滑り、何やら否定的なことも少々書いてしまいましたが、私も何だかんだ言ってドイツびいきですので、この催しがぜひ盛況のうちに終わり、日本とドイツの友好関係を促進する結果になりますよう、心より祈念しています。