州別対抗歌合戦 Bundesvision Song Contest 2005

土曜日に、Pro7 プロジーベンという放送局主体のBundesvision Song Contest 2005 ブンデスビジョン・ソング・コンテストという音楽イベントがOberhausen オーバーハウゼンKönig-Pilsener-Arena ケーニッヒ・ピルゼナー・アリーナで開催されました。

このイベントは、Stephan Raab というドイツの有名音楽プロデューサーにして、テレビの司会者が主催し、ドイツの16の州からそれぞれ代表を募り、電話とSMS による視聴者の投票によって大賞を決めようというイベントです。いわば、ヨーロッパの国別対抗歌合戦であるEurovision の連邦版という感じです。

私はこのイベントの勝者がEurovision のドイツ代表になると思っていたのですが、どうもそうでもないようです。結局、どういうイベントなのか、今一良く分かりませんでした。このイベントでは、出場者はドイツ語で歌わなければならなかったようで、ほとんどみんなドイツ語で歌っていました。


出場者とその順位は、以下の通りです。


16. Deichkind - "Electric Super Dance Band" (Mecklenburg-Vorpommern)

最下位は、旧東欧の海沿いの州メクレンブルク・ポンメルン代表の男性3人組Deichkind でした。おそらく、ほぼ無名の人たちだと思います。歌った曲は、軽くておちゃらけプロディジーという感じのブレイクビーツを使った懐かしのデジロックという感じでした。

ヴォーカルの三人の歌の下手さ、上半身裸の太った中年男性達と頭にピラミッド状のかぶりものを付けた女性がバックダンサーを勤めたことなど、非常にアングラ臭ただようパフォーマンスでした。さすがにこんな大舞台で、こんなふざけたアングラアーティストが人気を博すわけもなく、ダントツの最下位でした。

でも、このコンテストで面白いのは、Eurovision と違って、自分の州にも投票して良いので、他の州からは一点も取れなかったDeichkind も、自分の州では一位になっていたことです。本当に、お国対抗という感じでした。

15. Jansen & Kowalski - "Mamacita" (Sachsen-Anhalt)

これも旧東欧の州であるザクセン・アンハルトの代表は、Jansen & Kowalski。彼らもほぼ無名ではないかと思います。彼らは、非常にクールな70年代風のソウルミュージックを演奏していました。しかし、知名度がないからか、残念ながらこの順位でした。

14. Mamadee feat. Gentleman - "Lass los" (Nordrhein-Westfalen)

我が街ミュンスターやケルンを要す、ドイツの中核地域であるノルトライン・ヴェストファーレン州の代表は、Mamadee feat. Gentleman。生バンドで、ソウル寄りのクールでソリッド感じなレゲエを演奏していました。

13. Sandy - "Unexpected" (Rheinland-Pfalz)

ライン川沿いのラインラント・プファルツ州の代表は、元No Angels Sandy。普段は英語で歌っている彼女ですが、この日はドイツ語で歌っていました。曲は勿論、ばりばりのエンターテイメントポップスです。歌唱力の方は、正直今一つ。一般的知名度の割には、票が伸びませんでした。

12. Slut - "Why Pourquoi" (Bayern)

言わずとしれたドイツ最大の州バイエルンの代表は、ストレートなロックバンドSlut。演奏力はもう一つでしたが、ストロークスあたりからのクラシックロックリバイバルの流れにすんなりはまるような、カッコ良いストレートなロックンロールを聴かせてくれました。

掻きむしるようなギターやベースの激しいアクション、アンプの上からのジャンプなど、あの大舞台でロックライヴのお約束も見せてくれたのは良かったです。あと、大サビ後に、子供が出てきて歌い始めたところも、一工夫あって良かったです。個人的にはお気に入りだったのですが、今のドイツでロックは人気がないせいか、この順位でした。

11. Lukas Hilpert - "Kommt denn meine Liebe nicht bei Dir an" (Bremen)

港町ブレーメンの代表は、エンターテイメントシンガーLukas Hilpert。ボーイバンドのシンガーのような甘い歌声が人気の彼は、甘いバラードを持ってきましたが、結果の方は今一つでした。Sandy もそうでしたが、今回は有名エンターテイメントシンガーは奮いませんでした。

10. Virginia Jetzt! - "Wahre Liebe" (Brandenburg)

ベルリン周辺の州ブランデンブルク代表は、我らがVirginia Jetzt!。ストレートなミドルテンポのリズムで引っ張るこの曲は、相変わらず曲は良いものの、余りにひねりがなさ過ぎて、余り目立たないなと思いました。やはりこういう大舞台では、インディーっぽいバンドは、線が細いと感じます。

9. Klee - "Gold" (Saarland)

フランス国境近くのザールラント州の代表はKleeKlee は、最近ドイツ語ポップニューウェーヴの記事でも良く名前が挙がる注目株です。音楽性は、打ち込み的なリズムに、シンセと浮遊感のある女性ヴォーカルを乗せるというもので、かなりダンス寄りです。とは言っても、彼らの音は、ダンスのためというよりは、部屋聴きするような線の細いものです。音数が少なく、リズムも非常に控えめなので、やはり非常にインディー臭が漂います。あと、ヴォーカルがやはり上手くない。やはり、線の細さが目立つステージでした。

8. Samy Deluxe - "Generation" (Hamburg)

北ドイツ最大の港町ハンブルクの代表は、Samy Deluxeです。正直、特に特徴のない、ヒップホップをやっていました。

7. Clueso - "Kein Bock zu gehn" (Thüringen)

ドイツ中部のチューリンゲン州代表は、今回のコンテストのダークホースClueso。彼は、ソウルベースに、クラブテイストを加えたもので、インテリジェントとセンスを感じさせるクールな音楽を作っていました。正直、Jansen & Kowalski と方向性はかなり似ていました。

最近のドイツではクラブ寄りのソウルミュージックが結構人気なようで、他にも昨年のEurovision ドイツ代表のMax Mutzke も同系統の音楽をやっているし、もっとコテコテのソウルベースでヒップホップ寄りですが、Max Herre などもソウル色の強い音楽をやっています。

6. De Randfichtn - "Jetzt geht die Party richtig los" (Sachsen)

旧東欧のザクセン州代表は、堂々のシュラーガーバンドDe Randfichtn。他のアメリカやイギリス輸入のポップミュージックをやっている若いミュージシャンとは全然違い、民族衣装を着て、シンプルなリズム、シンプルなメロディーの(昔の)大衆音楽をやっています。シュラーガーは、ドイツ版演歌ともいうべき、昔ながらの大衆音楽ということで、何だかんだで盛り上がり、上位に食い込みました。

5. Apocalyptica feat. Marta - "Wie weit" (Baden-Württemberg)

ドイツ南西にあるバーデン・ビュルテンベルクの代表は、唯一の海外出身バンドであるシンフォニックメタルバンドApocalyptica とドイツのロックバンドDie Happy のヴォーカルMartaです。ストリングス+メタルという派手なサウンドに、ファルセットを多用した女性ヴォーカルというのは華がありますし、アポカリプティカ自体もドイツで知名度があるということで、上位に上がってきました。

4. Mousse T. feat. Emma Lanford - "Right About Now" (Niedersachsen)

ドイツ西北のニーダーザクセン代表は、ドイツの人気プロデューサーMousse T. feat. Emma Lanfordです。この曲も、打ち込み的な直線的リズムに、ソウルフルな女性ヴォーカルを乗せたということで、クラブ寄りソウルミュージックと読んで良いかと思います。センスは90年代的だと思いますが、やはり普通に格好良いです。

3. Sido - "Mama ist stolz" (Berlin)

首都ベルリンの代表は、いつも骸骨のお面を被っているラッパーのSidoです。彼はドイツの若手ヒップホップアーティストでは、最も人気があると言っても良い人です。正直、録音版のサウンドはかなりしょぼいですが、今回はバックに生ロックバンドを従えて、デカイ音のドラムと轟音ギターで場を盛り上げました。

この日は、トレードマークのマスクを自分から取って、素顔で歌うというサプライズムもあり、音楽的にはともかく、エンターティナーとしてはきちんと考えている人だと思いました。見栄えや派手さを考慮すると、Sido が一番でも良かったと思いましたが、惜しくも3位で終わりました。

2. Fettes Brot - "Emanuela" (Schleswig-Holstein)

旧東欧の最北の州シュレスヴィヒ・ホルシュタイン代表は、Fettes Brot。彼らは若い男の子3人組で、非常にドイツっぽいヒップホップをやっていました。ドイツっぽいというのは、シュラーガーっぽいということです。彼らのパフォ−マンスを見た瞬間、その余りのドイツ臭に、これはやばいと思わされました。何というか、ドイツ人がDNA レベルで好きそうな、あの感じというか、とにかく田舎臭く、安っぽく、絶対にドイツでしかありえないようなヒップホップだと思いました。

ヒップホップとしてはかなりアレな曲とパフォーマンスだっただけに、この曲が一位というのは不味いだろうと思ったのですが、何とか2位で済みました。しかし、正直今回は、1位のバンドの人気が最初から圧倒的だったので、純粋なパフォーマンスで言えば、この曲が最も支持を集めたと思います。

1. Juli - "Geile Zeit" (Hessen)

1位は、中部ドイツのヘッセン州代表Juli が取りました。Juli は、バックの演奏はかなりしっかりしているのですが、ルックス、歌唱力共にフロントが弱く、そこがライバルのSilbermond との人気や格の差になっていると思います。この日のヴォーカルのEva の歌も、正直かなり酷いもので、曲は良いのですが、パフォーマンス自体は今一つだったように感じました。

しかし、このサイトでも散々取り上げているJuli は、Silbermond とドイツ若手ポップロックバンドのナンバー1争いをしているほどの人気バンドなので、人気投票では圧倒的な強さを見せました。ほとんど全ての州で高得点を上げ、ぶっちぎりで一位を勝ち取りました。ファーストアルバムもダブルプラチナ(40万枚)を超えましたし、相変わらず凄い人気です。


ということで、Bundesvision Song Contest 2005 についてお伝えしてきましたが、全体的に地味で華がないアーティストが多かったなと思いました。ただ、これは、Stephan Raab の趣味と言うだけでもなく、ドイツでも本格嗜好のアーティストが、インディーから上がってくることが常態化してきたことの反映のようにも思えます。

ドイツ語ロックの隆盛は、同時にインディーロックのメジャーへの浮上という側面を伴っており、そういう流れがこのような大イベントにも反映されたように思います。個人的には日本では90年代に起こったようなことが、ドイツでは今起こっているような気もするのですが、まあこれはまだ根拠のない妄想ということで、ここまでにしておこうと思います。


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