日本の方が人気があるドイツバンドSpace Kelly
ミュンスターの超ローカルな地方のテレビ局でOffener Kanal TV Münster というテレビ局があります。この局は、ほとんど家庭用のカメラで撮られた、超手作り感漂う番組によって構成されています。
この局では、音楽番組もやっています。多分学生が番組を作っているので、取り上げる音楽は、インディーバンドばかりで、はっきり言ってMTV やVIVA よりも、ずっと面白いです。
さっきテレビを観ていたら、ドイツのギターポップユニットSpace Kelly のインタビューと、PV がやっていました。
Space Kelly は、実は日本でも一部でわりと知られている存在です。Space Kelly は、ミュンスターぐらいの街だと、CD を見かけることもないくらい、ドイツではマイナーな存在なので、どうも日本の方が人気があるようです。そのためインタビューでも、何故日本でそんなに人気があるのかとインタビュアーが聞いていましたが、本人も良く分からないようで、少々困惑した感じで、ポジティブでユーモアがあるからとか言葉はあんまり問題じゃないとか、今一要領の得ないことを答えていました。
この理由については、日本人である私の方が上手く答えられるでしょう。Space Kelly が日本で受け入れられたのは、元はといえば、フリッパーズ・ギターやピチカート・ファイヴが、それぞれ80年代初頭のネオアコースティック、60年代のソフトロックを紹介し、90年代の外資系巨大ショップの出現によってインフラ整備がされ、都市部の若者が気軽にそのような音楽を聴くことが出来るようになったことが、背景にあると思います。つまり、90年代前半の渋谷系ブームに遡ると思います。
渋谷系ブーム自体は、90年代半ばになると下火になりますが、ネオアコ、ギターポップ、ソフトロックは、特に下北沢を拠点として、アンダーグラウンドではその後も一定の勢力を保っています。Space Kelly も、タワーレコードやHMV などの外資系(タワレコの場合は元ですが)巨大レコードショップを通じ紹介され、一定の支持を受けたわけです。
つまり、Space Kelly が日本で受け入れられたのは、90年代以降の巨大ショップの登場によるインフラ整備と、過去の音楽の紹介、あるいはサンプリングやリバイバル的な方法論で音楽を作るバンドの登場が合わさり、多様なニッチ市場が生まれたことによります。Space Kelly のような音楽を特に好むリスナーによるニッチ市場がある程度あり、そのためそのニッチ市場の中で有名になれば、それなりに枚数が売れたり、動員が出来たりするわけです。Tahiti 80 が、ヨーロッパよりも、日本で売れているというのも同じような理由によると思います。
これは第一に日本の(大都市部の)情報と流通インフラ整備、そしてニッチ市場でもある程度の規模を確保することが出来る市場規模の大きさが前提となっています。そして、おそらくドイツには、このどちらもありません。
番組では「Die schönsten Mädchen gibt es in Amsterdam」という曲のPV が掛かったのですが、やっぱり良いですね。貧弱な男性の歌声に、清潔感のあるギター、軽快なリズム、テープを加工したノスタルジックなストリングス、甘いけれど抑制の効いたメロディー、どこを切ってもまさにギターポップです。PV が、16ミリっぽい粒子の粗い映像なのも、90年代を思い出させます。
でも、日本では、Space Kelly は手に入るけど、Wir Sind Helden とかは手に入りません。実は、インディーロックは、メジャーポップスよりも、簡単に国を超えるんですよね。余所の国から何を受容し、何を受容しないかということも、結構面白いテーマですね。
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