音楽市場の規模とポップス文化

私がドイツに来てから、ようやくはじめて気づいたことに、市場規模の大きさがポップミュージックに与える影響の大きさがあります。

日本は以前紹介したように、世界第二位の規模を誇る巨大音楽市場です。国内で販売される音楽製品の大半は国産のもので、英米のポップミュージックは余り大きなシェアを持っていません。私は、こういう状況で生まれ育ったので、これが当たり前だと思っていたわけです。

しかし、これも以前紹介したように、ドイツのポップミュージックは、その大半を英米のポップスに占められており、国産のポップミュージックは、かなり弱いと言わざるを得ません。何故ドイツのポップミュージック市場が、英米音楽の支配するところとなったかを明らかにするためには、どうも第一次大戦後のドイツポップス史を紐解かなければならないようなので、今のところ私には実際のところは良く分かりません。しかし、その原因の一つとして、アメリカとの市場規模の格差があることは間違いがないと思います。


ドイツはドイツで、GDP 世界3位の経済大国、ポップミュージック市場でも世界6位の巨大市場ではありますが、規模という面では、いかんせんアメリカにはとても敵いません。アメリカのポップカルチャーが世界を席巻しているのは、政治的経済的な強さから来る威信によるものでもありますが、同時に国内に巨大な市場を抱えるが故に、使える資金が潤沢であることもあると思います。

成功すれば億万長者になれるという成功した際の成果の大きさは、多くの人を引きつけ、競争を生み出し、才能ある人々を集めますし、巨大な宣伝資金で、世界中に宣伝をして、多くの人の注目を集めることもできます。また、英語という言語のプレスティージの高さも、そこで決定的な影響を及ぼします。

このような巨大な資金を背景にした、アメリカのスーパースターたちに、ローカルな市場のスターはなかなか敵いません。やはり、ドイツ国内だけだと、人口、市場規模の問題が出てくるのですが、かと言って英米のポップミュージックに対抗し、国際市場に活路を求めるだけの競争力もありません。そもそも、ドイツのポップミュージシャンは、英米のポップスの真似をしているわけで、その時点で国際的には勝ちようがありません。

そのため、国内だけで稼げる金額には、自ずから限界があります。そうすると、投資もそんなにできないから、そんなに国内で活躍するミュージシャンの数も増えていかないということになります。やはり、市場規模は、競争力に直結するし、小さいところは厳しいわけです。


ただ、ドイツはそれでも大分大きな市場を国内に持っているので、その気になれば、自国産ポップス中心でも、十分ミュージシャンを養っていけると思います。現在ドイツでは、ドイツ語で歌うポップスが急速に増えてきました。このようなポップスは、ドイツ語圏しか市場として狙っていないわけですが、ドイツ市場はかなりの大きさがあるので、それでも商業的に成り立つわけです。しかし、その他の小国となると、自国で消費するポップミュージックを自給自足するのは、非常に難しくなるのではないかと思います。

たとえば、ドイツのお隣スイスやオーストリアは、人口が数百万しかいない小さな国なので、当然国内のポップス市場も小さいです。そのため、国内だけで活動するのでは、ポップミュージシャンは、おそらくご飯が食べれないのではないかと思います。

たとえば、スイスやオーストリアでは、アルバム1万枚ですでに大ヒットですが、売上金額で言えば、アルバム一枚20ユーロとしてもたった20万ユーロ(約2800万円)です。ミュージシャンが10%もらえるとしても(普通はそんなにもらえないはず)、収入たった280万円です。そのため、印税だけで食べるのは、ほぼ不可能ではないかと思います。おそらく、コンサート収入などで生計を立てるのでしょう。

そのため、スイスやオーストリアのチャートは、英米、あるいはドイツのアーティストに席巻され、自国のポップス文化というのは、ほとんどないのではないかと思います(ただ、私はここらへんの状況に通じていないので、もし間違ったことを書いていたら、指摘お願いします)。

まあ、小国とは言っても、北欧諸国は結構ポップスでもがんばっているようですが、彼らは他の国でも売れる英語で歌っているのであり、母国語で歌っているわけではありません。

市場規模が小さい場合、その市場規模で養えるミュージシャンの数も自ずから少なくなるわけで、やはり自立したポップス文化を確立するのはなかなか難しいのではないかと思います。

もちろん、ヨーロッパ以外では、貧しく、市場規模の小さい国でも独自のポップス文化を持っている国ばかりなのですが、少なくとも、ヨーロッパでは、市場規模の大きさと自国のポップス文化には、密接な関係があるのではないかと思います。まあ、これも、英語と親和性の高いゲルマン語圏とラテン語圏では大分違うのかもしれませんが。


私がわざわざドイツの音楽市場について書いているのは、音楽市場のあり方と、その国のポップミュージックのあり方の間に密接な関係があり、その国のポップミュージックを理解するには、音楽市場がどうなっているかという基本的な知識が欠かせないと思うからです。

ポップミュージック成立の歴史と並び、音楽市場の特質は、ポップミュージック理解のために、決定的に重要だと思います。ドイツだけでなく、もっと様々な国の音楽市場について知りたいなとも思います。


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