The PIXIES 「loud QUIET loud」

80年代末から90年代初頭に活躍した、オルタナティブロック以降のロックシーンに絶大な影響を及ぼした伝説のロックバンドThe Pixiesドキュメンタリー映画を観ました。

The Pixies は、ヴォーカルのチャールズ(ブラック・フランシス Black Francis)とベースのキム・ディール Kim Dealの間の確執から解散しますが、2004年に再結成を果たします。今回の映画は、この再結成ツアーを扱ったものです。

ピクシーズが解散した後メンバーは各々大変だったようで、ヴォーカルのチャールズはソロとしてそれなりに活躍していました。ベースのキム・ディールは妹といっしょにTHE BREEDERS で音楽活動を続けますが、アルコール依存症になってしまいます。ギターのジョーイ・サンティアゴ Joey Santiago は、色々な仕事をしながら、細々と音楽活動を続けています。ドラムのデヴィッド・ラヴァリング David Lovering は、マジシャンとしての活動と印税で食べていましたが、近年印税収入が減り、厳しくなっていたそうです。いずれにせよ、伝説のバンドのメンバーにしては、恐ろしく地味な生活を送っていたようです。何故再結成をしたかの理由は明確には明かされませんが、正直な話喰うためというのは大きな理由だったのでしょう。

こんな感じの4人ですので、舞台裏の方もいたって地味で、映画らしい派手な事件は何も起こりません。せいぜい、ドラムのデヴィッドが父の死にショックを受けて、一時期薬を飲みすぎ、精神的に不安定になったことぐらいです。しかし、これも大事には至りませんでしたし、ツアーは大きな問題もなく淡々と進んでいったようです。

そのため、この映画で描かれるのは、4人のパーソナリティーと関係になります。4人の関係は、仲が良いとも悪いとも言えず、お互いに冗談を言い合うこともあるが、余り積極的につき合うわけでもないというものです。お互いにほとんど話さないらしいですが、かと言って険悪な仲でもなく、お互いに余り立ち入らないようにしているようでした。

チャールズは、一度離婚した後、二人の子を連れた女性とつきあい、ツアー中に子供ができたことが判明しました。彼はソロアルバムも作っていますが、リリースしてくれるレコード会社を探しているなど、余り芳しい状態ではないようです。キムは、移動中に妹といっしょにザ・ブリーダーズの曲を作っています。彼女はアルコール中毒から立ち直ったばかりなので、ツアー中もアルコールは一切ぬきだったそうです。

ジョーイは、かなり駄目人間風の他のメンバーと違い、非常にまともなお父さんのようで、ツアー先でも子供とテレビ電話で話したりしています。また、依頼を受けていたドキュメンタリーの劇伴音楽を、時にメンバーに演奏を頼んだりしながら作っています。デヴィッドは、得意の手品を披露したり、陽気な感じですが、前述の通り精神的に不安定になり、いつもi-Pod を聞いて、他のメンバーと余り話さなくなってしまいます。

チャールズとキムはもの凄い肥満であり、服にもほとんど気を使わないなど、見た目はかなり駄目な人という感じです。ジョーイとデヴィッドはごく普通の人という感じで、ロックスターと言えるオーラのあるメンバーは誰もいません。本人たちも、自分たちの活動に自信満々というわけでもなく、本当に観客が自分たちを求めてくれているのか、半信半疑のようなところがあるようでした。

しかし、こんなうだつが上がらない人たちがやっていても、何しろピクシーズは生ける伝説のようなバンドですので、チケットはアメリカでもヨーロッパでもあっと言う間に売れきれ、ライヴで観客は大熱狂し、もの凄い歓声が上がります。メンバーが歩いていたら、サインを求めるファンで一杯になります。印象的だったのが、ある小説でピクシーズが出てきたのを読んで、ピクシーズのことを知った女の子のファンです。彼女は、ピクシーズのカバーバンドのベースをやっていて、キムは自分にとって神のような存在だと言うのです。

最後は、彼女のバンドが「Monkey Gone to Heaven」を弾きはじめ、途中でピクシーズの演奏にシームレスに繋がって、この映画は終わります。

この映画を見て思うのは、やはり音楽というのは、そんなに儲かる商売ではないし、精神的には辛い仕事だということです。ピクシーズのようなバンドのメンバーでさえ、バンドが解散すると食べるのが難しくなってしまいますし、精神的に不安定になってしまうメンバーも多いわけです。それでも、ピクシーズはまだ成功したからマシですが、大半のバンドは全く売れず、注目されないまま解散するのが普通です。10年生き残るバンドなどほとんどありませんし、メンバーが死ぬまで続けられるバンドなど、奇跡的な珍しさだと言えるでしょう。

新生ピクシーズも、結局まだ新しいアルバムを作っていないなど、上手く行っているのかいないのか良く分からない状態にあります。メンバーもライヴをやっている最中は楽しいのかもしれませんが、ステージの外では、それほど楽しそうにも見えません。この映画は、そのようなロックバンドの現実を描き出していたように思います。