機動新世紀ガンダムX

機動新世紀ガンダムX』というテレビアニメシリーズを見ました。このアニメは、1996年に放映されました。監督は高松信司、脚本は川崎ヒロユキが手掛けています。

この作品は、ファーストガンダムとは別の世界の話なのですが、メタガンダムと言えるほどガンダムによってガンダムを語る作品になっています。設定では、15年前にニュータイプを使った戦争があり、その戦争のせいで、地球の人口のほとんどが死に、地球は荒廃しきっていました。この作品の舞台は戦後15年、ようやく復興してきたが、まだ無秩序状態にある地球です。

この作品のストーリー的な軸は、力を失ったかつてのニュータイプが、世界中回ってニュータイプを保護していくというものです。彼は、かつて刻を見たときのことが忘れられず、ニュータイプとは何なのかを探るのですが、最後の最後にファーストニュータイプから、ニュータイプなどというものは最初からいなかった、彼が見た未来も幻想だったと宣告されます。

このようにこの作品は、ニュータイプガンダムをテーマにしたメタガンダムになっています。15年前の戦争とはファーストガンダムの時のアニメブームであり、戦後の荒廃した世界は、その後の荒廃したアニメ業界のことです。アニメ新世紀宣言などと浮かれていたら、その後アニメの革新などは起きず、つまらないアニメが粗製濫造されただけだったという感じでしょうか。

つまり、ガンダムは当時新しかったし、大人気だったが、別にアニメの革新でも何でもなかったから、ガンダムから自由になりこれからより良いアニメを作っていこうという話だったと思います。そのため、この作品は、主にアニメブームで刻を見てしまい、その後のアニメ界に失望してしまった人に向けて作られた作品だと思います。

また、この作品には、ニュータイプの力を利用する大人、闇雲に崇拝する大人も出てきます。これはガンダムを利用して金儲けをしようとしているバンダイい対する批判、また熱狂的なガンダムオタクに対する皮肉だと言えるでしょう。

ただ、これは分かる人にしか分からない暗喩になっているので、別に普通のロボットアニメとして見ても、十分楽しめます。

また、この作品は、ボーイ・ミーツ・ガールの話でもあります。孤児である主人公のガロードが、ニュータイプの少女ティファに出会い、二人は次第に心を通わせていきます。ガロードはずっと一人で荒廃した戦後に生きてきたので、人のことを信用せず、他人とどう接して良いか分からない孤独な少年でした。しかし、フリーデンという船に乗り、他の乗組員と共に過ごし、色々なことを教えられるうちに、人との接し方を覚え、自分の役割を果たすことが出来るようになっていきます。

他方、ティファは、特別な力を持っているために、色々な者に狙われてきており、心を深く閉ざしています。しかし、彼女は、ガロードと出会い、彼の勇気や行動力を目の当たりにし、さらに自分に対する好意を感じるうちに、次第に周りの人に打ち解けていき、人間らしい表情を取り戻していきます。

このように、この作品は、戦後の厳しい状況下でも、勇気と希望を失わず、未来に向かって進んでいく少年と少女の成長物語でもあるのです。

そして、この成長物語は、戦争を知らない戦後世代こそが、未来を切り開く、つまりガンダムを知らない若い世代が良いアニメを作ってくれるはずだと希望を託すかたちで、メタガンダムの軸に繋がっています。

この作品は、キャラクターデザインは古くさく、作画はかなり悪く、これがこの作品が人気が出なかった大きな理由の一つだと思います。ただし、脚本や演出は、なかなか侮れないものがあります。

この作品の最大の長所は、しっかりとキャラクターの内面を描いたことでしょう。フリーデンの乗組員などの主要キャラクターは、彼らが経験したことをちゃんと受け止め、それに対する反応を見せます。

たとえば、ティファは最初は心を閉ざして、ほとんど無表情だったのが、話が進むうちに次第に表情が豊かになっていきます。心を開く過程は、ほんとうにゆっくりなのですが、だからこそ最後に生き生きと笑う姿に説得力が感じられます。

また、この作品では、作中でいくつかカップルが出来るのですが、本当に何気ない会話や描写を繰り返すことで、何となく好意が生まれていることが視聴者にも感じられるようになっています。ガンダム乗りのウィッツは、何かと彼をからかうトニアにいつも悪態をつくのですが、いつもいつも悪態をついているので、次第に彼がトニアを意識しているからあれほど悪態をつくのだということが分かるようになっています。

恋人を故郷で失ったロアビーは、直接は口に出さないのですが、彼の台詞や行動の端々に、その時の喪失感が後を引いていることが表れています。そのため、表面的には明るく飄々としていても、心の底では重いものを抱えているのだと、視聴者に感じられるようになっています。

また、この作品は、そのような心理描写を、台詞で直接表すのではなく、間接的な表現で表すことが良くあります。

たとえば、ティファがガロードのところに、嫌な予感がすると相談に来て、自分の部屋に戻ろうとするとき、ガロードは心配で何度も彼女を呼び止めて、他愛もない話をしてしまいます。ようやくティファが去ると、彼は一度部屋に戻りドアを閉めるのですが、気になってもう一度ドアを開き、ティファが去っていく後ろ姿を眺めます。彼女が廊下を曲がって見えなくなっても、まだそちらを眺め続けていると、去ったはずのティファが廊下の角から顔を出して、「また、明日ね。」と、もう一度彼にお別れを言うのです。

何気ないやり取りなのですが、二人がお互いを思いやっている気持ちが良く伝わってくる微笑ましい場面になっています。

個人的には、理想の大人とも言うべき医師のテクス・ファーゼンバーグさんとか、脇役だけど地味に良い味出していて好きです。

ガンダムX』は、物語的には、かなりご都合主義的なところも多く、色々問題もあるのですが、このような細かな心理描写が、キャラクターに血を通わせているので、キャラクターの心理の連続性で、ドラマを引っ張ることができています。この作品は良く地味と言われますが、地味な描写をきちんと積み重ねることで、キャラクターにリアリティーが生まれ、それがドラマに求心力を与えていると思います。

また、ラスボスのフロスト兄弟が、電波理論バリバリで大暴走するところは、いかにも富野チックなので、電波な会話を交わしながらモビルスーツバトルを行う場面が好きな人には、必見の場面だと言えます。

出来が良いかと言うと微妙なところも多いのですが、やはりキャラクターがしっかり描かれているせいか、愛すべき作品になっていると思います。心理描写のしっかりした、少年少女のさわやかな成長物語を見たい人には、しっかり満足できる作品になっていると思います。


参考