Dixie Chicks Top of the World Tour (2)

サードアルバム『Home』発売後のツアーを収めた、Dixie Chicks のライヴDVD 『Top of the World Tour -Live-』ですが、ライヴ映像18曲に加え、おまけで「Top of the World」のPV が収録されています。残念ながら、このDVD は、ライヴを完全収録したものではありません。このツアーは、2枚組のライヴCD にもなっているのですが、こちらの方が完全収録になっているようです。

また、このDVD の映像はちょっと奇妙で、色々な会場で収録された映像を、つなぎ合わせて作られています。だから、ワンショット毎にメンバーの衣装が変わってしまい、映像に全く一貫性がありません。普通はある一会場の音源と映像を使ってライヴ映像を作るものですが、このDVD では、その普通のやりかたを採っていません。何故このような奇妙な編集をしたのかは不明ですが、できるだけ色々な衣装を見てもらいたいという、アイドル的な見方をしている人に対する心遣いなのかと思いました。しばらくすると慣れるのですが、最初何事かと思って、面食らいました。


このツアーでライヴが行われたのは、どこも数万人は収容できる巨大アリーナばかりのようです。さすがカントリーのトップグループは凄いと思わされますが、驚くべきは、観客の大半が若い女の子だということです。Dixie Chicks は、ポップスよりのカントリーですし、数百万枚を売り上げる人気グループなので、若い子に人気があってもおかしくはありませんが、カウボーイハットをかぶった若い女の子達が、カントリーのライヴで黄色い声を上げたり、飛び跳ねている様は壮観でした。

また、Chicks の三人の衣装も、余りカントリー風ではなく、ラフなTシャツやミリタリー風のジャケットや、革のパンツなど、ロックやパンクを彷彿とさせる衣装が多かったです。でも、長身で痩身というモデル並みのスタイルのMartie Emily が、いかにもカントリーというフィドルバンジョーを持って演奏していると、ルックスと持っている楽器のギャップが目に付きます。


このライヴは、Dixie Chiks の三人以外にも10人以上のミュージシャンをステージに上げるというかなり大規模な編成でした。Dixie Chiks のバックボーンにある(らしい)ブルーグラスの典型的楽器であるフィドルバンジョーマンドリンドブロだけでなく、ドラムやエレキギター、キーボード、ストリングスまで入っています。楽器が多すぎて、若干演奏が散漫になりがちなところもないことはないですが、ドラムやエレキギターが入り、ロック的な味付けを付け加えたり、カントリー的な曲でも、よりリズミカルで、ポップに聴けるようになっていました。普通に楽しく、みんなで盛り上がれるような、メジャー感溢れるステージでした。


彼らは、かなりバンドアンサンブルを練ったようで、大編成ながら、余り散漫さを感じさせない演奏を聴かせていました。個々人の演奏の実力は、少なくともカントリーの音痴の私が聴く限りでは文句のつけようのないものだと思います。Chicks の楽器担当の二人も、凄く演奏が上手いんですよね。あれだけ難しそうな演奏をしながら、完璧にコーラスワークもこなす実力があるのだから恐れ入ります。でも、あれだけルックスが良くて、これほど演奏の実力がある人がいるのだから、カントリーというのは層が厚い音楽なんだと思い知らされます。

ヴォーカルのNatalie も、コブシを効かせ、いかにもカントリーという感じで歌っています。ずっと聴いていると、ちょっとコテコテすぎるかなとも思ってしまいますが、やはり無茶苦茶上手いです。ちなみに彼女は、ほとんどの会場で髪を上げ、リーゼントにしていたようです。リーゼントとコブシを回した歌唱法という組み合わせも、ちょっと面白いです。


曲の方は、静かに歌い上げる曲もあれば、軽快なリズムで、お客さんが大盛り上がりするような曲もあるなど、バラエティーに富んだものでした。とは言っても、やはり全体を通して、一貫してカントリーであり、ほとんど普通のポップスをやっているシャナイア・トウェインなどのように、他の音楽ジャンルに浮気をしているわけではありません。要するに、日本で言えば演歌のような音楽を堂々と最初から最後までやっていました。


個人的には、ドラムとベースがあっても、リズムがいつも直線的で、グルーヴがないところが、黒人音楽ではなく、白人の音楽だなと思います。カントリーの起源は、元を辿れば、もちろんアメリカに移民を送り出したイングランドアイルランドなどのヨーロッパですが、ヨーロッパのポップスの大半にも、どうも余りグルーヴがないようです。リズムに対する感性は、黒人音楽の影響下にあるポップミュージックと、それ以外のポップミュージックでは大きく異なると思います。

日本でもそうかもしれませんが、ヨーロッパでもカントリーが苦手な人は多いようです。土着的なものは、余り国境を越えないのでしょう。私はカントリー事情を良く知らないので、あてずっぽうになりますが、おそらくカントリーは、全アメリカ的に人気があるわけではなく、南部や西部などで人気があり、東西両沿岸の大都市部などではそんなに人気がないのではないかと思います。

でも、そういうローカルな音楽が、数百万枚とか下手すれば一千万枚を越すセールスを上げ、コンサートでは数万人を動員するわけですから、凄いものだと思います。アメリカの繁栄を支えているのは、広大な国土と、膨大な人口、そして巨大な規模の国内市場の存在だと思いますが、カントリーというローカルな音楽があれほどのセールスを上げられるのも、この巨大な市場規模があってのことなのでしょう。


私が、アメリカはやはり覇権国だし、同時に広大で多様だと思うのは、伝統的なポップミュージックのジャンルであるカントリーが、未だにメインストリームのポップスの一角を担っているのを見てのことです。例えば日本の演歌や浪曲、ドイツのシュラーガーなどが、アメリカのカントリー並みに人気があるかと言えば、そんなことはありません。ローカルな部分を残す演歌やシュラーガーは、すでにお年寄りが聴く音楽であり、衰退していく一方の音楽です。

それに取って代わるのは、もちろんアメリカからやって来るポップミュージックです。その背景にあるのは、アフリカ起源のソウルミュージックと並び、ヨーロッパ起源のカントリーミュージックです。

アメリカは、自国のポップスを他国に輸出はするが、輸入はしないという国です。カントリーの人気がなかなか衰えないのは、他のよりプレスティージの高い音楽ジャンルに、取って代わられることがないからでしょう。それが出来る国は、もちろん文化的な覇権国であるアメリカだけです。


また、アメリカでカントリーが盛んなのは、アメリカがまだローカルな部分を沢山残しているからなのでしょう。基本的に産業化が進み、外国の文物、あるいは情報がより多く入ってくると、次第にローカルなものは、ローカルでないものに駆逐されていきます。だから、日本やドイツのような国では、ローカルな音楽も駆逐されつつあるわけです。

アラブ諸国やインドなどは、ヨーロッパよりもずっとローカルな音楽を保っていると思いますが、おそらくそれでも次第にアメリカなどのポップミュージックが浸透しつつあるはずです。


アメリカでカントリーが残っているというのは、まだアメリカ内部で、それほど産業化されていない地域が残っているということでもあるのではないかと思います。

それでも、カントリーも外部とは無縁でいられないわけで、Dixie Chicks シャナイア・トゥウェインフェイス・ヒル等のメガセールスを上げるカントリーミュージシャン達は、かなりポップスの要素を取り入れて、成功をしています。つまり、当然の事ながら、セールスのことを考えれば、ローカルな要素は、薄まった方が有利だということです。この傾向は、やはりアメリカでもいっしょではないかと思います。


ただ、Dixie Chicks は、それほど他のポップスの要素を大々的に取り入れているわけでもありません。それでも、会場には若い世代が大量に来ているので、カントリーは、世代交代が結構上手く行っており、新しいリスナーも増えているのだろうと思いました。


郷土愛的に考えた場合、それはちょっと羨ましいなと思ってしまいます。自分たちの先祖が聴いてきた音楽を、ずっと聴き続けることができるというのは、やはりアメリカならではだと思います。たとえば私は、演歌は聴きません(あるいは、聴けません)が、他国の音楽であるカントリーは聴けるわけです。

カントリーは、アメリカ内のローカルな音楽ですが、アメリカそのものが音楽の大輸出国なので、カントリーもまた、他国へ輸出される音楽でもあります。私も、カントリーを含むアメリカのポップミュージックを聴きながら育ちましたから、アメリカのポップスは違和感なく聴けます。


しかし、一方で、自分が幼い頃から聴いてきた、歌謡曲や演歌は、今は聴けなくなっています。これはおそらく、無意識の内にローカルな音楽のプレスティージは低いと思っていたこと、また英米のポップミュージックの要素を取り入れることで進んできた日本のポップミュージックが、次第にローカルな要素を残す歌謡曲や演歌と分裂していき、両者の違いが大きくなっていったためではないかと思います。


まあ、演歌が聴けなくなって、何がどうということはないのですが、それは郊外化する地方の街並みを見て、便利になっていくものの、なんとなく釈然としないものが残るというようなことと、似通っているのではないかと思います。だから、そういうことを感じないでも済むような人たちのことは、少々羨ましく感じないことはないのです。


と、いつの間にか、大分脱線しましたが、やっぱりDixie Chicks は良いなと思いました。かなりポップなので聴きやすいし、バンジョーフィドルの音色やフレーズなども郷愁を誘うようなところがあります。私は、カントリーというよりも、アコースティックなポップスとして楽しみました。こういう乾いた、土臭いアコースティックな音楽というのは、聴いていて心地よいものだと思います。

ただ、今回のライヴは大編成で、演奏が余りソリッドではなかったので、もっと楽器数を絞って、より本質剥き出し(つまり、ブルーグラス色の強い)のアコースティックライヴも聴いてみたいと思うようになりました。あれだけの実力があるグループなら、多分その方が良い演奏になるだろうと思うので。