『エトワール』

エトワール デラックス版 [DVD]

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パリのオペラ座バレエ団に密着したドキュメンタリー映画『エトワール』を見ました。この映画は、バレエ団の舞台裏やバレリーナたちのインタビューによって構成されています。音楽もほとんど使わず、ナレーションもなく、全編を通した筋書きがあるわけでなく、淡々とバレエ団やバレエ学校の様子を映し出しています。

では、この映画がつまらないかと言えば、そうではありません。淡々としたストイックな描写は、極上の素材を際だたせるためのものです。演出は控えめでも、フィルムに映し出されている場面場面、あるいは人々の言葉が興味深いので、ついつい画面に引き込まれてしまいます。

バレエとは、この上なく華麗なもので、バレリーナ、それもパリのオペラ座のそれともなれば、世界的に有名なスターということになります。しかし、そこに到るまで、そしてそこに到ってからも、精神的、肉体的に、恐ろしく過酷な日々が待ち受けていることを、この映画は描き出しています。

バレリーナに最も必要なものは、ストイシズムのようです。ある女性は、修道院に入る代わりに、バレエをやっていると言っていましたが、世俗の遊びや楽しみとは縁のない、まさに修道院のような隔絶した世界で、常人には思いもよらぬ生活を続けるのが、バレリーナであるようです。

彼らがストイックであらねばならないというのは、彼らの肉体を見れば、嫌でも分かります。バレリーナの肉体は、極限まで脂肪を落としながら、なおかつ過剰な筋肉も付けないという、普通ではあり得ない肉体です。脂肪を落としやすい男性ならともかく、女性でも、肉体にほとんど脂肪がないのです。

薄皮一枚の下から浮かび上がる鍛え抜かれた高密度の筋肉、その肉体は美しいですが、その美しさというのは、スポーツアスリートのそれです。減量でギリギリまで肉を削ぎ落とす、ボクサーの肉体に通じるものがあるような気がします。しかし、あの肉体を維持するのだから、日常生活でも、食事などに徹底的に気を使わねばらなず、大食などはとてもできないでしょう。

舞台では、華麗な彼らですが、舞台裏に入った瞬間、ゼイゼイと息をしていました。考えれば、あれほど激しい動きを長時間に渡り続けるのですから、並大抵の疲労ではないのでしょう。

肉体的にも、精神的にも極限的なものを求められる彼らですが、大きな犠牲があろうとも、舞台の上で踊る喜びはそれを上回るのだそうです。彼らは、バレエに対する熱い情熱を語りますが、そこまでの情熱がないと、あれほど厳しい世界ではやっていけないのでしょう。彼らは生き残った人々ですが、その過酷さに付いていけずに、バレエを諦めていく若者が、無数にいるのだろうと思います。

やはり、世界の頂点に登ること、そして登り詰めた後、その地位を維持することは、生半可なことではないと思わされました。おそらく、このドキュメンタリーに映し出されていることはオペラ座の極一部で、陰では色々とあるのでしょうが、華麗な世界の裏側にある、過酷な日々と、それを生きる人々の情熱のたぎるような熱さを、ひしひしと感じる映画でした。