Terrence Malick 監督『Thin Red Line』

この映画は、太平洋戦争中のガダルカナル島での戦いを描いた戦争映画です。しかし、戦争映画とは言っても、英雄的な指揮官や兵士が活躍するというものではなく、地味で緻密な描写で、前線の兵士の感情を丹念に描いていく作品になっています。

この映画では、様々な兵士のそれぞれの思いや、戦闘への怖れ、戦争への疑問などが描かれています。彼らが、地べたを這いずり回り、弱音を吐き、情けない姿を晒す様子を丹念に描いているので、ある種の図式に収まらないものが描かれているような印象を受けます。そのため、この映画の描写には、かなりのリアリティーがあるとも言えます。

また、この映画では、戦闘場面でも、直接関係がない風景描写を頻繁に挟み込んでいます。この映画では、南の島の風景が大変美しく撮影されており、人間だけでなく、自然の様子も、映画の中に取り込もうと意図されていたことがうかがわれます。

この映画は基本的に、美しい映像、丹念な心理、そして戦闘描写が見事な、かなり出来の良い映画です。ただ、個人的には、それほどピンと来なかったという部分もあります。

この映画では、冒頭の場面などで現地の未開部族の村が映し出されるのですが、これはおそらく殺し合いをしている現代社会との対比になっていると思います。また、自然描写が多いのも、同様の理由ではないかと思います。このような未開、あるいは自然に対するイメージは、個人的には、ナイーブすぎるのではないかと思いました。

また、この映画では、兵士の怖れや失敗や、苦しみばかりを描くというところがあります。そのため、兵士の非好戦的側面や非英雄的な側面が強調されすぎており、これはこれで、戦争に対する監督の幻想の投影の所産ではないかと思いました。たとえば、日本兵が、包囲されたアメリカ兵に「俺はお前を殺したくない」と泣きそうになりながら近づいていく場面には、個人的に全くリアリティーを感じられませんでした。ただ、私は、戦場での兵士の心理について良く知らないので、実際は、この映画の描写はきちんと史実に基づいていたのかもしれず、私の個人的な印象に留まります。

この映画では、戦闘シーンを含めて、いつも感傷的な音楽が鳴っているなど、全体的に非常にセンチメンタルな雰囲気が漂っています。そのため、センチメンタルな戦争映画が好きな人には、大変良い映画だろうと思います。