Robert Wise 監督「Sound of Music」

名作と誉れ高いこの作品を見るのは、実は今回が初めてだったのですが、実際に見てみると、やはり数十年の風雪を耐え、古典となるだけのことはあるなと納得しました。

この映画は、修道女を目指しているが、お転婆でどうしようもないジュリー・アンドリュースが、7人の子どもの家庭教師になり、彼らの父親である大佐と恋に落ちるという話です。この映画は、ミュージカルですが、音楽の力が、人の心を様々なかたちで動かしていくことを描いているという意味で、内容的にもミュージカルにふさわしい映画になっています。

この映画は、空撮で雪に覆われたアルプスの山々から、緑の山、谷、牧草地を越え、丘、そして丘の向こうから現れるジュリー・アンドリュースを捕らえるという、とんでもない場面から始まります。この空撮は非常に見事で、最終的には、ジュリー・アンドリュースにぶつかるのではないかと心配するくらいにカメラが彼女に寄ります。その後、アルプスの美しい丘の上で、ジュリー・アンドリュースが、「サウンド・オブ・ミュージック」を歌うのですが、シネスコサイズなので画角が非常に広く、彼女が壮大な風景の中で歌い、踊る姿が、一層引き立ちます。丘の下から見上げ、空を画面一杯に入れるカメラアングルのショットも素晴らしく、冒頭から、凄いショットが連続するので度肝を抜かれました。

もうこの場面を見ただけで、これは凄い映画だということは明らかですが、その後も、手を変え、品を替え、登場人物が、歌い、踊りまくります。しかも、この映画は、音楽によって、子どもたちや彼らのお父さんの閉ざされていた心が開き始める、あるいは歌によって、ナチス占領下でのオーストリア人としての誇りを示すなど、音楽が物語的にも非常に重要な役割を果たしています。そのため、ミュージカルという非現実的な表現手法も、映画の中で不自然に感じられず、むしろ登場人物の心情をより豊かに表現するものになっています。

有名な「ドレミの歌」も、単なる楽しい曲ではなく、きちんと意味があることも驚きでした。規律でがんじがらめにされていた子どもたちは、それまで全く音楽に触れたことがなく、一曲の歌も歌えませんでした。そのため、ジュリー・アンドリュースが、音楽の基本中の基本、つまり「ドレミ」という音階を、彼らに分かりやすく教えようと考え出したのが、あの「ドレミ」の歌だったのです。

もう、映画中名場面だらけで、3時間もあるのに、全く退屈せず、夢中で最後まで見てしまいました。ミュージカル調の楽しい前半に比べ、後半はナチスからの逃亡劇という、ハラハラする展開になります。前半で各キャラクターが丁寧に描かれ、感情移入が進んでいるために、後半の展開は、本当にハラハラします。手に汗握って、「頼むから捕まらないで・・・」と祈るような気持ちでした。脚本がきちんとキャラクターを描くと、これほど感情移入ができるのだと、非常に新鮮な感じがしました。

この映画は、ある一家の話ということで、内容的にはミクロのレベルの話なのですが、にもかかわらずスケール感と大作感が出ているのは何故でしょうか。その理由の一つは、頻出するアルプスの山々を広い画角で撮っていることですが、おそらくそのような映像面だけでなく、演出、脚本、舞台設定などの緻密な作り込みの密度のせいではないかとも思います。いずれにせよ、スケールの大きな映画だという印象を受けました。

シネスコサイズを最大限に活かしたスケールの大きな画面作り、登場人物の感情を観客に分かりやすく説明してくれる丁寧な脚本、誰もが知っている曲ばかりという名曲揃いの音楽、アイデアをふんだんに詰め込んだミュージカルの振り付け、共感を呼ぶ魅力的な登場人物たちと、それを表現する役者の演技、ロケ地選び、美術など、全てにおいて非の打ち所がないほど高水準で、これがミュージカル映画の最高峰と賞される映画の実力かと感服しました。もう、ぐうの音も出ないくらいの素晴らしい映画で、全盛期ハリウッドの娯楽大作映画の凄みというものを、思い知らされました。