『ヤン・シュヴァンクマイエル短編集』

ヤン・シュヴァンクマイエル 短篇集 [DVD]

ヤン・シュヴァンクマイエル 短篇集 [DVD]


チェコの生んだ偉大なアニメーション作家ヤン・シュヴァンクマイエルの短編集を見ました。収録されている作品は、「フード」('92)、「石のゲーム」('65)、「ワイズマンとのピクニック」('68)、「 肉片の恋」('89)、「フローラ」('89)、「アナザー・カインド・オブ・ラブ」('88)、「スターリン主義の死」('90)、そしてシュヴァンクマイエルを扱ったドキュメンタリー「プラハからのものがたり」('94)です。

「フード」は、三つの短編から成ります、一つ目は、人間が自動販売機になり、舌を引きだしてお金を入れ、顎を殴りソーセージと飲み物を買うのです。ソーセージを食べると、自動販売機役が入れ替わっていくという話です。二つ目は、レストランで向かい合って座る腹を減らした男二人が、競うように、自分の洋服や靴、下着、テーブル、椅子などを食べ尽くすという話です。三つ目は、やたらと色々野菜やソースを何かにかけたりしている男は、実は自分の身体の一部を使った料理を食べていたという話です。

「石のゲーム」は、時間が来ると、時計の蛇口から石が白黒のバケツの中に流れ出て、オルゴールの音楽と共に、様々に動き出すという話です。
「ワイズマンとのピクニック」では、屋外で、人を直接描かず、人が活動しているる様を間接的に描いています。
「肉片の恋」は、肉塊から切り分けられた血の滴るような肉片が、共に踊り、最後に焼かれるという話です。
「フローラ」は、アルチンボルドーが描いたような野菜や果物でできた人形の身体が、腐り、次々と破裂していくという話です。
「アナザー・カインド・ラブ」は、狭い部屋で女性の人形がメタモルフォーゼしたりしている80年代のPVです。
スターリン主義の死」は、スターリンの石膏像の頭を半分に割ったら、共産党時代のチェコの指導者が生まれたという風刺劇です。


彼は、アニメーションといっても、粘土などは余り使いません。むしろ、人間や石やベッドや服や果物や肉などの自然物をそのまま撮影して動かす、つまり実写でアニメーションする人だと言えます。実写でアニメーションするとは、カメラでそのまま対象を映像として撮影するのではなく、わざわざ一枚一枚コマ撮りしていることです。「フード」などは、人間や部屋をそのまま撮影しているので、実写で撮っても良いのですが、わざわざコマ撮りして、繋げて、動かしています。しかし、このコマ撮りによって、実写なのに、何か非常に変な感じを受ける、つまり観客に異化作用が生じるわけです。

その意味では、我々が日常的に目にするものを使って、見事に異化作用を引き起こすところに、彼の作品の面白さがあると言えます。つまり、束芋さんとは異なり、画面を構成するイメージだけでなく、動きそのものが彼の作品の面白さを決定付けるという、正に立派なアニメーション作品だと言えるでしょう。

また、彼は、非常に面白い編集をします。たとえば、「石のゲーム」では、軽快な音楽に合わせ、石が様々に動き回り、観客にその動きのリズムを印象付けると同時に、石を擬人化し、感情移入を促します。しかし、その動きを眺めていると、前触れもなく鍋が傾き、突然ごとんと石が真っ逆様に落ちるのです。この編集は、二つの場面の落差を非常に強く強調しており、観客に驚きを引き起こします。そして、その唐突さは、暴力的だと言えます。シュヴァンクマイエルは、このような落差を強調するような編集を行うことで、観客に強い印象を残すことに成功しています。

とにかく、全編に渡り強烈なイメージに満ちあふれています。しかも、何故かやたらと暴力的であったり、悪意に満ちています。このような特異な映像体験は、他のアニメーションではまず見られないと思うので、気に入るかどうかは別として、一度は見ても損はない作品だと思いました。