「吉原治良展」

戦前から戦後にかけて活躍した、宮城県美術館で開催されている吉原治良の生誕100年記念展覧会を見てきました。彼は、戦前は、後期印象派以降のヨーロッパ絵画の流行をそのまま追ったような絵画を描いていましたが、戦後に大化けして、立派な画家になった人のようです。

この人の絵は、戦前と戦後で、本当に大きく異なっています。戦前の絵は、塗りが薄く、描線も汚く、かなり技術水準が低いというか、適当な感じでした。この人は抽象絵画も描いているのですが、色が線からはみ出ていたり、揺れていたりするので、まるで中学生が図画の時間に描いたような脱力感にあふれていました。また、絵の具の質や物資窮乏のせいなのかもしれませんが、とにかく絵の彩度が低く、くすんだ感じに見えました。しかし、戦中のかすれた筆のタッチを多用した絵画は、なかなかでした。

戦後すぐの一時期に、彼は幻想的な具象画を描いています。格子模様を大胆にあしらったり、何だか良く分からない迫力がありました。その前の絵がしょぼすぎたこともあり、この時期の絵が、個人的には一番気に入りました。また、塗りも、この頃の絵はきちんとしています。

その後、彼は、「具体」というグループを率いて、キャンバス上の絵の具の盛り上がりを使って、立体的な絵画を描くようになります。このあたりの絵は、絵の具の微妙なでこぼこが分からないと、面白さが半減するので、画集などではその特質は分からないだろうと思いました。

一方、常設展示の方で、吉原が主催した「具体」の他のメンバーの絵もみることができました。しかし、彼らの絵は、主催者以上にインパクトがあるものでした。仙台生まれの菅野聖子は、大きなキャンバスの上に、コンピュータグラフィックのワイヤーフレームを思い起こさせるような緻密で規則的な幾何学紋様を描いていました。彼女の絵のミニマルさは凄いもので、じっと見ていると目がチカチカしそうな程に異常な緻密さなのです。背景の塗りの均一さ、描線の無機質な感じも素晴らしかったです。

色彩が爆裂しているという感じの嶋本昭三上前智祐の絵、訳の分からないが異様な迫力のある白髪一雄の絵、真っ白のキャンバスが隆起し、その真ん中に穴が空いているという今井祝雄の「白のセレモニー」、キャンバスの上に樹脂でエミール・ガレっぽくも見える円形のオブジェを作り上げた高崎元尚の「Apparatus」などを見ると、吉原の絵は、非常に大人しく見えてきます。

彼らの作品を見ると、何だか良く分からないけれども、異様に活動力に満ち満ちていて、「具体」には、熱量の高い人たちが集まったのだと思いました。