絵が動くことそのものの官能性

涼宮ハルヒの憂鬱』のEDテーマ「ハレ晴れユカイ」と『らき☆すた』のOPテーマ「もってけ!セーラーふく」は、オタクの間で爆発的な人気を博し、CD は大変な売り上げを記録し、無数のMAD動画が作られる事態となりました。この両オープニングが、これほどの人気を博した理由は、おそらくキャラクターが踊る印象的なダンスにあります。この両曲の踊りが、多くのファンに真似され、You Tube に素人が踊っている動画が氾濫しているのがその証拠です。

個人的に興味深いと思ったのは、やはり現在のオタクも、アニメーション、つまり絵が動くことが持つ官能性を求めていたと言うことです。『ハルヒ』も『らき☆すた』もジャンルとしては、萌えアニメに含まれると思いますが、萌えアニメは従来テレビの深夜帯などに放映される低予算な作品ばかりであったと思います。*1しかし、萌えキャラのような複雑なデザインのキャラクターを動かすことは手間が掛かり、低予算アニメでは困難です。そのため、おそらく、これらの萌えアニメのほとんどは、紙芝居のような、動きに乏しい、つまりアニメーションとしての魅力に乏しかったと思われます。

しかし、「ハレ晴れ」や「もってけ!セーラーふく」では、キャラクターが非常に良く動きます。しかも、バストアップだけでなく、フルショットでキャラクターが動くのです。カメラ移動やショットの切り替えを余り行わず、真正面にカメラを据え、ロングのフィックスで全身の動きを捉えたのは、編集で誤魔化さず、動きそのもので勝負をするつもりだったからでしょう。そのため、動き自体も、テレビアニメでありがちな記号的な動きではなく、全身の細かな部分にまで注意が行き届いた緻密な動きをしています。

踊り自体は、アニメーターが振り付けたものですから、それほど見栄えがするものではないと思います。生身の人間が踊ると、痛々しく見えると言っても良いかも知れません。しかし、プロが振り付けをしたアイドルの踊りには注目が集まらないのに、アニメの踊りの振り付けに注目が集まるのは、端的に言って絵が動くという事自体に官能性があるからでしょう。

動かないとばかり思っていた萌えキャラが、フルショットで緻密に動く、このことが大きなインパクトを視聴者に与えるのだろうと思います。つまり、技術そのものが持つ官能性に、多くの人々が引かれたのだと思います。

そのため、私は、これらの踊りは、アニメーション本来の魅力は、現在でも有効であるという、アニメーションの復興に繋がるのではないかと期待しています。キャラクターを動かした方が人気が出るとなれば、なるべくきちんと動かそうという試みが増えることが、市場原理からして当然だからです。

他にも、『ナルト』などで行われる極端にデフォルメした作画を好んで見る人々もいるようですし、一時期と比べると、絵が動く方向に進んでいると思いますので、この調子で日本でアニメーションが復興してくれると面白いと思います。

*1:私はこの辺の事情には全く通じておらず、推測で書いているので、間違っていたらご指摘下さい。