シングルCD はグッズ

私は長らくオリコンなどのチャートを見ていなかったのですが、最近「The Natsu Style」さんというオリコン売り上げ分析ブログを読み始めたため、久しぶりにチャートの状況を知りました。

個人的に驚いたのは、ヒットチャートの上位が、有名アーティスト以外に、ジャニーズやK-PopAKB48などのアイドル、アニメの主題歌やキャラソング、あるいは声優ソングなどのアニメ関係のシングルに席巻されていることです。

アイドル関係のシングルはほとんど例外なく超初動型で、一週目はオリコン上位に入っても、二週目には急降下するようです。これは一週目には、ジャケット違いなど様々なバージョンのシングルを出したり、握手会などのイベントを行ったりして沢山シングルを売るが、熱心なファン以外はほとんど誰も買わないので、二週目にはチャートを転げ落ちるということのようです。

また、人気アニメや声優関係は、金払いの良い優良な固定客が多数ついているので、確実に売り上げを上げられるようです。

現時点ですでにシングルCDは、音楽を聴くものというよりは、熱心なファン向けのキャラグッズに近い性格の商品になりつつあると思います。全体的に売り上げが下がっているので、一部の熱心なファンが徒党を組めば、比較的容易にチャートの上位に登ることができ、オタク向け商品が多数上位に食い込んでいる現状を見ると、実際にそうなっているのだろうと思います。

シングルCD の売り上げ枚数は昔と比べると本当に落ちていますが、現在では、その代替手段として「着うた」が急速に伸びてきているので、そちらに食われているだけだとも言えます。すでに、シングルCD は、昨年の時点で音楽配信の売り上げに逆転されました音楽配信の売り上げはほとんどが携帯向けなので、おそらく今年は携帯向け音楽の売り上げだけで、シングルCD の売り上げを上回るだろうと思われます。

現在シングル市場は急速に携帯向け音楽に移行していますが、これって、シングルチャートがますます若者シフトしているということだろうと思います。私は携帯については良く知りませんが、携帯のヘヴィーユーザーは若者に大きく偏っており、携帯音源を購入しているのも主に彼らなのではないかと思います。

しかし、これはシングル市場のシュリンクを意味しているだろうと思います。というのは、若者人口は今後益々減少していきますので、若者向け商品の市場は確実に小さくなるからです。実際に90年代末以降の音楽市場の急速な縮小の主な要因は、若年層から中高年齢層への人口シフトだと思われるので、これは未来の話と言うよりは、むしろ現在進行形の話です。

今後パッケージの売り上げが減少し、配信音楽に売り上げがシフトしていくと、アルバムという概念が薄れていくので、シングルチャートとアルバムチャートの区別が次第に曖昧になっていくと思われます。日本ではソニーなどの有力レコード会社がiTMS に自社の音源を出さないこともあり、PC の配信は思うように伸びていません。

今後もこの傾向が続くと、パッケージの売り上げ減を配信音楽の売り上げがカバーできず、市場の縮小はますます進むと言うことになるだろうと思います。利用者の年齢層が高いPCの配信が余り成長せず、若者中心の携帯音楽市場ばかりが成長する場合、大人市場はますます壊滅的になり、若者市場も人口減少に伴いジリ貧になるという目も当てられない状況に陥るような気もします。

そのため、今後音楽市場の縮小を防ぐためには、人口的に縮小することが100%決まっている若者市場ではなく、より人口が大きい成人市場を狙うしかありません。しかし、レコード会社は、相も変わらず若者市場をターゲットにした商品にばかり重点を置いているので、ますますジリ貧になっていくわけです。

これは90年代に団塊ジュニア世代という人口の多い世代が若者だったときに彼らに向けた商品を重点的にプロモーションし、売り上げを爆発的に伸ばした成功体験が忘れられないがために起こっていることなのでしょう。90年代を通じて日本では大人向けの音楽市場が衰退しました。音楽業界が生き残るためには、大人市場を再興することが必要なはずですが、これは難しそうですね。

人口的に縮小する市場の中で何とか売り上げを保つには、一人当たりの売り上げを増やすしかありません。金払いの良い優良顧客からは、搾り取れるだけ搾り取るという現在の複数枚商法は、その意味では合理的なやり方なのでしょう。そのため、今後は、ますます一部の熱狂的な顧客を囲い込み、一人当たりの売り上げを増やすというマニア向けの商品が増えて来るとも考えられます。

その意味では、アイドル、アニメ・声優、ビジュアル系ロックなどは、レコード会社にとっては大変優良なコンテンツになるのかもしれません。ただ、これらのジャンルは音楽以外の要素が売り上げを決めるという色合いが強く、熱心なファン以外には余り魅力的ではないジャンルなので、それはそれでジリ貧になる一方という気もします。

ビジネスのために音楽をやっている方々は大変だなあと思います。