Perfume『GAME』

Perfume の待ちに待った初のオリジナルアルバム『GAME』を聴きました。これまで出たシングルが、カップリング含め名曲揃いなので名盤になることは発売前から決まっていたわけですが、期待を裏切らないアルバムに仕上がっていました。

新曲では、ヨーロッパで流行している80年代のニューウェーヴ的なサウンドがかなり導入されています。中田ヤスタカは、『Capsule』の『Flash Back』でかなりエレクトロ色の強いサウンドに移行しているので、Perfume でも使ったのでしょう。一昔前の中田サウンドは、既に今の中田サウンドからはずれています。中田フォロワーはまだ『Fruits Clipper』の時の中田サウンドにも追いついていないので、そこからさらに先に進んでいる中田ヤスタカに追いつく人は当分出てこない気はします。


一曲目の「ポリリズム」は言わずと知れた、Perfume がブレイクするきっかけとなった一曲です。中盤に表題通りポリリズムが使われている変則的な構成が面白い曲です。

二曲目の「plastic smile」は、平板なメロディーとベースラインで引っ張る曲です。シンセのフレーズといい、かなり手癖感が出ている曲だと思います。

三曲目の「GAME」は、最近のCapsule のようなノイジーで音圧の高いベースラインとエレキギターのリフで構成された曲です。ヴォーカルの音量は小さく、エフェクトが強く掛けられているので、ポップス色が弱く、ヴォーカルの入ったインスト曲という感じに仕上がっています。

四曲目の「Baby cruising love」は、オリコン3位に入ったシングル曲ですが、メロディアスな普通のポップスのように見えて、やたらとキックの音圧が高く、リズムで引っ張る曲になっていると思います。

五曲目の「チョコレイト・ディスコ」は、季節外れのかわいらしい一曲です。テクノポップな音色をしたシンセサイザーが曲のかわいらしさを印象づけ、シンプルなフレーズの繰り返しから成るサビの単調さが、アイドルポップス感を強めていると思います。

六曲目の「マカロニ」は、起伏のない平板なメロディーや印象の残らないサウンドで引っ張ることでじわじわとテンションを上げ、終盤の電子音とマカロニのリフレインで一気にクライマックスまで持って行く曲です。一曲を通じてのテンションのコントロールが計算され尽くされており、私はあの電子音が鳴り始めるといつもグッと来ます。

七曲目の「セラミック・ガール」は、ドラマの主題歌ということで、シングルカットされてもおかしくない非常にキャッチーな一曲です。畳みかけるような細かい譜割りが、リフレインするシンセのフレーズと四つ打ちリズムと絡み合って、BPM以上の速度感を出していると思います。それにしても、シンセサイザーの音色が素晴らしいです。

八曲目の「Take Me Take Me」は、シンプルなシンセのフレーズのリフレインと、断片的なフレーズのコーラスによって構成されたかなりインスト曲に近い一曲です。メロディーやコードが洗練されており、コーラスに強いエフェクトが掛かっているので、かなり浮遊感があります。時折入るアコースティックギターアルペジオが良いアクセントになっています。

九曲目の「シークレット・シークレット」は、ユーロピアンな雰囲気漂う一曲になっています。しかし、メロディーはシングル曲張りのキャッチーさで、Pinoとのコラボレートで使われるのも納得の一曲です。

十曲目は「Butterfly」は、冒頭のシンセサイザーからしてエレクトロ全開な一曲です。この曲は、中田曲には珍しくメロディーが哀愁を帯びています。

十一曲目の「Twinkle Snow Powdery Snow」は、エレクトロ三部作の路線を引き継いだ近未来な一曲です。個人的には、中期Perfume のアップテンポ曲は、この曲で一つの頂点を迎えたと思っています。今と比べるとキックやベースの音圧が低く、ヴォコーダーの掛かり方が強く、全体的に甘めな作りになっています。しかし、ゴリゴリのテクノ・ハウスサウンドとアイドルポップスのバランスは絶妙で、テクノ的なポップスとしては理想的な一曲になっているように思います。その圧倒的な疾走感と後半の怒濤の展開による高揚感は、中田ヤスタカの楽曲の中でも飛び抜けているように思います。

十二曲目の「Puppy love」は、生音を大胆に導入したサウンドと甘いメロディーによるアイドルポップス的な一曲です。ベースやドラムが(多分)生音サンプリングの打ち込みですし、アコースティックギターも使われています。また、バスドラムが他の曲と比べると非常に弱く、むしろスネアやシンバルの方が目立ちますし、リズムもABメロが普通の8ビートで、サビが流行の裏打ちハイハットの四つ打ちということで、中田曲っぽくらしくない普通のポップス感が出ています。

歌詞も、「ツンデレーション」などという釣りとも思える印象的なフレーズが出てきますし、くるりの「ばらの花」のような印象的なアルペジオも使われていますし、メロディーも非常に甘いし、ヴォーカルもかわいらしいということで、アイドルポップスとしてサービス満点な曲に仕上がっています。にもかかわらず、音像がハイファイですし、生音もサンプリングということで、同系統の楽曲である「wonder2」「Seventh Heaven」「マカロニ」と比べても、より無機質な仕上がりになっています。とにかく、今までに聴いたことがない変な曲で、今回のアルバムでも最大の異色作になっていると思います。


アルバムの質はこれ以上はないほど高く、捨て曲なしというよりも、名曲揃いと言った方が良いようなアルバムになっていると思います。

中田ヤスタカは、Capsule やコルテモニカなど色々なアーティストのアルバムを出していますが、それらのアルバムは基本的に収録曲数が少なく、さらにその中の半分くらいはちゃんと歌が入っていないインスト曲と言うことで、ポップスのアルバムとしてはボリュームに欠けていました。Perfume の『GAME』は、中田ヤスタカが初めて作った完全歌もので、普通のボリュームのあるオリジナルアルバムだと言えるでしょう。その意味では、このアルバムは、中田ヤスタカの「ポップス」としてのアルバムとしても最高傑作だと思います。中田ヤスタカは、現在の日本で最も優れており、将来を嘱望される音楽家なので、彼の最高傑作とも言えるこのアルバムは、00年代日本のポップスの最高傑作であり、金字塔であるとも言えるでしょう。

日本は言うまでもなく、世界的に見ても00年代以降新しいシーンを作ったと言えるほど広まったサウンドはないので、時代感があるポップミュージックというのはほとんどなくなっていると思います。そのため、大半のポップスは、5年前に聴いても5年後に聴いても余り印象が変わらないようなものだと思います。そんな中、Perfume というか中田ヤスタカの作る音楽は、現在進行形で最先端のポップミュージックを切り開いているという感じがする希有な音楽だと思います。

時代を切り開くためには、大いに売れて、大いに人気を博さなければならないわけですが、幸いなことにこのアルバムは、セールスの方もかなり期待できそうです。このアルバムがきっかけで、中田ヤスタカがメジャーなプロデューサーになり、日本のポップスの勢力図を一新する可能性もあるわけですし、Perfume の『GAME』は、まさに今現在聴かなければならないと思わされる、時代を切り開く一枚だと思います。


GAME(DVD付) 【初回限定盤】

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