Silbermond 「Zeit für Optimisten」

ファーストアルバム『Verschwende deine Zeit』が、特大ヒットを飛ばし、Juli ユーリと共にドイツ語ポップスの爆発的広まりの起爆剤となり、一躍時代の寵児となったSilbermond ジルバーモントが、アルバム発売後第一段のシングルを発売しました。

タイトルは「Zeit für Optimisten ツァイト・フュア・オプティミステン」で、「オプティミストにとっての時代」という意味です。ドイツの現状を御存知な方は、タイトルを見ただけでピンと来るかもしれませんが、歌詞は、ドイツの出口の見えない閉塞状況の中でオプティミストとして生きることの難しさを扱ったものです。

とは言っても、この曲は暗さや重さとは全く縁のない、疾走感のあるパンキッシュな曲になっています。曲の傾向で言うと、ファーストシングルのMach's dir selbst」「Verschwende deine Zeit」の延長線上にあるような、ポップとメロコアパワーポップの間ぐらいに位置する曲なのですが、今回は、過去の曲以上に、勢いと疾走感のある出来になっています。


ファーストアルバムでは、アレンジや音像がかなりポップ寄りというか、高音を強調したハイファイな音作りや、シンセやエフェクトを掛けたコーラスなどによる過剰アレンジが見られました。そのため、彼らの音楽は、かなりポップス寄りに聞こえたのですが、今回のシングルでは、音作りやアレンジが、一気にロック寄りになりました。

装飾を廃した音像に、余計なエフェクトを使わないアレンジがなされているため、これまでにないくらいロックバンドとしての性格が全面に押し出されています。このようなシンプルな音作りをした場合、小細工抜きの実力勝負になりますが、ジルバーモントは、見事にこれまでよりも一ランク上の上の演奏を披露しました。

ジルバーモントは元々下手なバンドではありませんが、特別演奏が良いバンドではなかったことも事実です。しかし、おそらく一年中ツアーを回り続け、ライヴの場数を踏んだせいでしょう、このシングルの演奏を聞くと、以前と比べバンドとしてかなりタフになったことが伺えます。


この曲は、ベースがリードする静かで、緊張感のある始まりから、ヴォーカルとドラムのコール&レスポンスによってテンションを上げ、ヘヴィーなギターとドラムの疾走によりサビで一気に盛り上げるという構成になっています。

今回の演奏の主役はドラムで、そのためかドラムの音量は大きめになっています。この曲は、曲の展開とテンションのコントロールを非常に良く考えて作られており、演奏に単調な部分が全くありません。そのテンションのコントロールの基盤になっているのがドラムです。

パンキッシュな勢いだけの演奏だと、ドラムが表を打つだけの単調なリズムパターンになりがちなのですが、この曲では、ドラムはこういった単調なリズムパターンを全く使いません。表に打ったら、その後は裏に打ち、リズムが一本調子にならないように常に、リズムをバラしているのです。(私はドラムの技術用語に通じているわけではないので、変な表現をしているかもしれませんが、もしそうならばご指摘いただけるとありがたいです)

特にAメロは、他の楽器が目立たないパートなので、ドラムの工夫が目立ちます。Aメロではヴォーカルがワンフレーズ歌うと、その後短い間奏が入るのですが、この部分はほとんどドラムソロに近い状態になってしまいます。しかし、それでも音の薄さを全く感じないのは、ドラムが印象的なフレーズで叩いているからです。この部分は、勢い重視でストレートなリズムを刻むヴォーカルパートと、その後に来る、フレーズ重視のドラムパートのメリハリが、見事に疾走感に繋がっており、個人的に、非常に見事だと思います。

それもそのはずで、彼らは、この曲をライヴで色々なアレンジで試したり、スタジオでジャムったりして、相当練り込んで仕上げただろうからです。このシングルには、2曲目にタイトル曲のライヴバーションが入っているのですが、シングルとは、アレンジが少し違っています。

前述のAメロの部分は、ライヴバーションでは、さらに複雑なものになっています。メロでは、ほぼ同じフレーズが3度繰り返されるのですが、ドラムは3回とも違うフレーズで叩いています。このライヴバージョンのアレンジが、スタジオ録音後変化したものなのか、スタジオで録音する前のまだ固まっていないバージョンなのか私には判断が付きませんが、いずれにせよ、彼らがライヴで曲を練り上げるというアレンジ方法を取っていることは、間違いありません。

この「ジャムってる感」は、この曲の隅々まで感じられます。細かな部分まで手を抜かず、できるだけ面白く、起伏のある展開になるように、アイデアを出し合い作り込んだ様子が、演奏を聴くと否応なく浮かんできます。

曲の展開は、以前と比べるとかなり複雑になりましたが、疾走感や勢い、あるいはメジャー感が少しも失われていないのは、なかなか凄いのではないかと思います。このバンドは、やはり持って生まれたメジャー感があるのではないかと感じます。

また、この曲にあれだけの疾走感があるのは、譜割りが非常に細かく、言葉のリズム感が非常に良いからだと思います。彼らは前から、ドイツ語の歌詞ながら、かなり英語のポップスに近い語感で歌っていましたが、おそらく細かく分析すると、譜割りの仕方に特徴があるのだろうと思います。

この曲は、メロディーも良いし、歌詞も興味深いですし、演奏も練りに練っているなど、個人的には、ジルバーモントがバンドとして着実に力を付けていることを証明した、会心の一曲だと思います。しかし、残念ながら、あんまり売れませんでした。何故これほどセールス的にも勢いに乗っているバンドの会心の一枚が売れないのか、ドイツ人の趣味は良く分かりません。

いずれにせよ、彼らはこれからももの凄い数のライヴをこなし続けるようですから、今後のますます地力を付けていくだろうと思います。今後北欧やベルギーなどでもライヴをやるそうですから、海外のファンも増えてくるかもしれません。来年辺り、日本でも、サマーソニックあたりで呼んでも良いかもしれないと思うのですが、いかがでしょうか。