戦争、テロリズム、革命。『Land of the Dead』

ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロのゾンビシリーズ第四作目である『Land of the Dead』を見てきました。何分ゾンビ映画と言うことで、気軽な気持ちで見に行ったのですが、意外や意外、非常に政治的な映画でビックリしました。

世界貿易センタービルを思わせる巨大なビルでは、特権階級の人々が豪奢な生活をし、巨大ビルの周りには貧しい人々が生きています。人間の住む区域は、川と、電気の走った鉄柵で囲まれ、さながらゲーテッド・コミュニティーのように、外界から閉じられています。彼らの生活物資は、装甲車と重火器で武装した傭兵たちが、街の外にあるスーパーなどから奪ってきます。外には、ゾンビがうろうろしており、人間を見ると襲いかかってきます。

この映画は、非常にシンボリックに作られており、イラク戦争後のアメリカの社会を、ある側面から描き、そして批判していると言えます。

この映画では、ゾンビは単なる得体の知れないモンスターではなく、人間によって虐げられた生き物として描かれています。ゾンビたちは、人間が花火を打ち上げると、うっとりしながら空を見上げ、攻撃心を無くしてしまいます。この隙に人間たちは、ゾンビたちを、殺しまくるのです。重火器で武装した人間にゾンビは成す術なく次々に殺されていきます。その様子は、どう見ても一方的虐殺そのものです。

その他の場面でも、人間がゾンビを面白半分に殺す場面が何度も出てきますし、上流階級の人々は、ゾンビを射的の的にしたり、檻の中に入れて人間と格闘させたりするなど、ゾンビを残酷に扱います。自分たちの仲間たちが、次々に虐殺されていく様を見たゾンビが、怒りを覚え、人間に立ち向かっていくというのが、ストーリーの骨子です。

それ以外に、人間社会内でも、高層ビルに住む上流階級の世界に、下界の人間はどうやっても上がれないという、階級格差があり、それに怒った傭兵が、高層ビルを破壊しようします。このゲーテッド・コミュニティーの支配者は、金のことしか頭のない人間として描かれており、上流階級の面々も、ビルの外では人々が困窮しているのに、享楽にうつつを抜かすろくでもない連中として描かれています。

人間に怒りを覚え、ゲーテッド・コミュニティーを襲うゾンビの指導者は」、元々ガソリンスタンドで働いていた黒人であり、支配者に裏切られテロを起こそうとする男は、ヒスパニックです。テロ=アラブ人ではなく、ゲーテッド・コミュニティーの指導者に反旗を翻すのは、あくまで黒人とヒスパニックなのです。

つまり、この映画で行われたテロ、反乱は、あくまで国内の貧富の差、人種差別によるものであって、宗教とイデオロギーによるものではないということです。これは、あくまでアメリカの国内問題として描かれています。

それまで散々虐げられたゾンビたちが、最後にゲーテッド・コミュニティーの人間たちに復讐する場面は、どう見ても資本家の搾取に怒ったプロレタリアートによる革命にしか見えません。あの頽廃した上流階級の連中が、次々にゾンビの餌食にあり、高層ビルがゾンビに占拠されていく場面は、悲惨な場面であると同時に、虐げられた者が復讐を果たすというカタルシスを感じさせる場面でもあります。

巨大ハリケーンであるカトリーナニューオリンズを破壊し、それまで表だって語られてこなかったアメリカの矛盾が、白昼の下に曝された直後である今この映画を見ると、非常に味わい深いものがあります。とにかく、強烈に風刺の効いた映画で、個人的にはマイケル・ムーアの『華氏9.11』より、ずっと面白かったです。