2005年ドイツアルバムチャート、シングルチャートを振り返る。

私も特に今年の後半はドイツの音楽シーンを余り追いかけられておらず、必ずしも状況が分かっているとは言えないのですが、今年最後と言うことで、今年のドイツポップスチャートを振り返ろうかと思います。

Silbermond ジルバーモントJuli ユーリの大ブレイク後のドイツ語ポップスブームの巻き起こった昨年は、戦後のドイツポップス市場の一大転換点とも言うべき激動の年でした。それと比べると、今年は、特に目立った動きはない年でした。

しかし、昨年からのドイツ語ポップスブームが沈静化した後も、ドイツ語で歌われるポップミュージックがヒットし続けました。英語で歌うことが普通だった状況から、ドイツ語で歌うことが普通になった状況へと、ドイツのポップス市場は完全に移行したという感じです。

Wir Sind helden ヴィア・ズィント・ヘルデンの登場から始まったドイツ語ポップスの流れは、すでにドイツの中で定着し、主流になったと言っても良いでしょう。昨年が変革の年だとしたら、今年は定着の年だと言えるかもしれません。


今年のアルバム年間1位は、Söhne Manheims ゼーネ・マンハイム『Noiz』です。このアルバムは昨年発売されたアルバムですが、驚異的なロングセラーを記録し、今年のアルバムチャートの1位に輝きました。

ゼーネ・マンハイムは、現在ドイツで最も人気がある男性歌手であるXavier Naidoo セビア・ナイドゥーがヴォーカルを勤めるバンドです。彼らの音楽は、90年代以降的R&B をベースとして、ヒップホップ、ソウルや中世の音楽までミックスしつつ、非常にメランコリッシュで演歌的な部分も合わせ持つという、かなり独自性の高いものです。

Xavier のヴォーカルも、かなり粘っこい昔のシンガーのような部分と、エスニックなコブシの感じが混じる独特のものです。ゼーネ・マンハイムに似たバンドと言われても、何も思い浮かばないような、かなりオリジナリティーの高いバンドだと思います。

おそらく、Xavier のカリスマ的人気と、音楽性の高さ、また演歌的な大衆性が多くの人々を引きつけこのような特大ヒットに繋がったのでしょう。


アルバムチャートの年間2位には、Wir Sind Helden ヴィア・ズィント・ヘルデンのセカンドアルバム『Von hier an blind フォン・ヒアー・アン・ブリント』が入りました。さすがにドイツポップスブームの火付け役になったバンドだけあり、今回も圧倒的な人気を集めました。

1枚目が余りにも大ヒットし、影響力が強くなってしまったので、2枚目はどうなるのかと注目が集まっていましたが、蓋を開けてみれば、セールス、アルバムの質共に文句の付け所のない結果となりました。

2作続けて特大ヒットを飛ばしたヘルデンたちは、名実共にドイツを代表するバンドの仲間入りをしたと言えるでしょう。ただアルバムが売れた一方で、今年はシングルが全く売れませんでした。そのため、個人的には、ヘルデンたちの音楽の一般への浸透度は、前作よりも下がっているのではないかと推測しています。

おそらくこれは、今回のアルバムが、ギターロック色が強く、インディーロックに接近しすぎたためではないかと思います。実は今年は、Silbermond ジルバーモントJuli ユーリのシングルも全然当たらなかったので、インディーロック的な音楽は、ドイツでは少し難しいのかもしれないと感じないことはありませんでした。


それ以外にトップ10に入ったドイツ盤は、昨年から売れ続けたJuli ユーリ『Es ist Juli エス・イスト・ユーリ』の4位、ドラマ主題歌で大復活を果たした大ベテランNena ネーナ『Willst du mit mir gehn ヴィルスト・ドゥー・ミット・ミア・ゲーン』の9位、大ベテランPeter Maffay『Laut und Leise』の10位です。合計で5枚が10位までに入りました。


20位までには、これまた昨年から売れ続けたAnnett Louisan『Bohème』の11位、今年大ブレイクを果たしたオーストリアの女性シンガーChristina Stürmer クリスティーナ・ストゥルマー『Schwarz Weiss シュヴァルツ・ヴァイス』の14位、これまた超ロングヒットのSilbermond ジルバーモント『Verschwende deine Zeit フェアシュヴェンデ・ダイネ・ツァイト』の15位です。

さらに、ドイツのマライア・キャリーとも言うべき超人気女性歌手Sarah Connor サラ・コナー『Naughty But Nice』の16位、際物ダンスポップユニットBanaroo『Banaroo's World』の17位、今年最大のニューカマーTokio Hotel 『Schrei シュライ』の18位です。20位まででは、11枚がランクインしました。

ちなみにドイツ盤11枚のうち、英語で歌われているアルバムはサラ・コナー、Banarooの二枚だけです。この中で最も商業的雰囲気の漂う2組が英語で歌っているというところから、現在のドイツのポップスシーンにおける英語のイメージがなんとなく想像付くと思います。


お次は、シングルの年間チャートを見てみましょう。今年のシングル年間1位は、やっぱりというかSchnappi シュナッピー「Schnappi, das Kleine Krokodil シュナッピー、ダス・クライネ・クロコディール」です。昨年の年間1位O-Zone Dragostea Din Tei」(邦題「恋のマイヤヒ」)に勝るとも劣らない圧倒的浸透度で、堂々の1位に輝きました。

元々口コミでじわじわと人気が広まったこの曲は、O-Zone同様、音が安くても、キャッチーなメロディーがあれば、多くの人の耳を引きつけ、社会に浸透することを見事に証明していると言えるでしょう。おそらく、世代を問わず、ドイツ人なら誰でも知っているヒット曲は、今年はシュナッピーだけでしょう。


2位は、アルバムチャ−トでも年間19位に入ったTokio Hotel「Durch den Monsun ドゥルヒ・デン・モンスーン」です。Tokio Hotelは、ティンエイジャー4人が組んだ少しグランジの入ったロックバンドです。このデビューシングルが爆発的ヒットを飛ばし、彼らは一躍、ティーンエイジャーのアイドルとなりました。

このバンドのメンバーは、まだ幼さの残る10代半ばで、ヴォーカルの少年は、まだ変声期を迎えていないかのような子供っぽい声をしています。彼らは余りに幼すぎるので、際物臭さは否めないのですが、グランジロックという音楽ジャンル、そしてパンクやゴス的なファッションでその際物臭さを中和しており、見事大ブレイクに持って行きました。

余りにストレートな仕掛けは受けないので、非商業的イメージのあるグランジやロック、パンク的ファッションで商業性を中和するという戦略は、アヴリル・ラヴィーンアシュリー・シンプソンケリー・クラークソンなどアメリカで大成功していますが、ドイツでも上手く行ったようです。

アメリカでは女の子がロック!が成功の鍵のようですが、ドイツでは少年がロック!が成功の鍵だったようです。


その後10位までに入ったドイツシングルは、おなじみSöhne Manheims ゼーネ・マンハイム「Und wenn ein Lied ウント・ヴェン・アイン・リート」と白人ラッパーDie Firmaディー・フィルマ「Die Eine 2005 ディー・アイネ2005」です。年間10位以内に4曲しかドイツのシングルが入らないなど、今年はかなりシングル不作の年でした。


20位までに入ったドイツシングルを見てみます。先ずはいかにもドイツなヒップホップFettes Brot フェッテス・ブロート「Emanuela エマヌエラ」の11位、超人気ドラマ「Verliebt in Berlin」の主題歌Nena ネーナ「Liebe ist リーベ・イスト」の14位、ディズニーアニメ『Robot』の主題歌Sarah Coner 「From Zero to Hero」の15位、オーディション番組出身の4人組の疑似ゴシックグループNu Pagadi ヌ・パガディ「Sweet Poison」の17位、サングラスを掛けたゴツイ女性歌手の歌うバラードJoana Zimmerヨアナ・チンマーI Believe (Give a Little Bit..)」の20位です。20位までには、9枚のドイツシングルが入りました。

ちなみにこの9枚のうち英語で歌われている曲は、Sarah ConneNu PagadiJoana Zimmer の3組です。Joana Zimmer は、かなり本格的な女性歌手と言うことで、今の流れで言うとドイツ語で歌いそうな感じですが、英語で歌っているところが面白いです。


また、シングルチャートは、アルバムより購買層の年齢が低いので、ヒップホップが多くランクインします。今年大ヒットしたドイツ産ヒップホップは、Die Firma 「Die Eine 2005」Fettes Brot 「Emanuela」ですが、正直言って、どちらもドイツ人以外が聴いたら「何じゃこりゃ?」と思うような凄くダサイ曲です。ドイツのヒップホップのレベルは、全体的にかなり低いと思いますが、その中でも最もドメスティックな要素が滲み出て、他国の人間には受け入れがたいような曲がヒットしたことは興味深いと思います。

ただ、すでに枯れた音楽になっているポップスやロックとは異なり、まだ現在進行形で進化しているヒップホップは、アメリカとそれ以外の国のレベルに著しく差があるのが普通だと思うので、ドイツのヒップホップの状況がそれほど特別ではないのかもしれません。


ヒットチャートはかなり小粒で、豊作とは言えない年でしたが、一方インディーポップやロックでは、DianaPaulaTocotronicKettcarErdmöbelAnnett Louisanなどが、手堅く質の高い作品を発表していました。Wir Sind Helden のアルバムも非常にインディー色の強いものでしたし、この辺のポップミュージックが好きな者にとっては、良い年だったのではないかと思います。