『銀河ヒッチハイク・ガイド』

銀河ヒッチハイク・ガイド [DVD]

銀河ヒッチハイク・ガイド [DVD]

SFファンの間では、かなり有名らしいSF小説銀河ヒッチハイク・ガイド』が映画化されたというので、見てみました。

この映画は、奇想天外、荒唐無稽の超巨大スケールで送るナンセンスでスラップスティックかつ、クールでシニカルな映画という感じでした。私は原作を読んだことはありませんが、これは、カルト作品として熱狂的ファンがつくはずだと、納得しました。

この映画では、冒頭から、人間よりも賢いイルカが警告してくれていたにもかかわらず、人間が地球の危機に気づかなかったために、宇宙バイパスを造るための怠慢なお役所仕事によって、あっさりと地球がぶっ壊されます。そして、友人の宇宙人の助けで生き残ったイギリスの冴えない中年男は、ヒッチハイクで乗り込んだ宇宙船で、超不細工なヴォゴン人に捕まり、酷い詩を聞かされます。しかし、酷い詩に耐性のあるイギリス人は、何とかヴォゴン人のデタラメな詩に意味を見出し、誉めそやしますが、何が気に入らなかったのか、宇宙に放り出されてしまいます。

しかし、彼らは、無限不可能エンジンのためにソファーに変化しながら宇宙船に助けられ、二つの頭と三本の手を持った宇宙大統領と生き残りの地球人女性、そしていつも頭をうなだれ、ぼやいている鬱気質のロボットと共に、大統領のカッコつけのために、生命、宇宙、そして全ての究極の答えを計算している宇宙最高のコンピューターを目指すのでした。

こんな感じで、この映画で投入されるアイディア量は尋常ではなく、奇想天外なものばかりが全編に渡り波状攻撃のように出てきます。しかも、投入されるネタが一々ひねくれていて、作者の頭の良さと意地の悪さを感じさせます。全編に満ち満ちたブラックユーモアで笑える人は、見てみて損はないでしょう。

この映画の面白さは、基本的に原作の膨大なアイディア量によるところが大きいのですが、映画としても、かなり良く出来ています。この映画はかなりユーモラスですが、笑いを誘うための間の取り方が、非常に上手いなと思いました。また、画面と音楽のミスマッチや、俳優の演技、宇宙人やロボットのデザインも度々笑いを誘っていました。映像も、CG でもの凄い壮大な映像を見せるかと思えば、宇宙人はきぐるみだったりと、大作感を出す映像と、脱力したりおバカな映像が良い感じ混じっていていました。余りに大作感が出過ぎたりしていると、この映画の馬鹿さが薄れますし、余りに馬鹿な映像ばかりだと、チープになってしまうので、かなり良いバランスだったのではないでしょうか。

では、この映画は、単に荒唐無稽で、笑えるだけのバカ映画かというと、実は深読みしようと思えば、いくらでも深読みできる仕掛けを色々としている映画でもあります。これもおそらく大半は、原作に起因していると思いますが、徹底的に馬鹿馬鹿しく描かれる究極の答えの探求は、その馬鹿馬鹿しい描き方自体が、そのような問いを行うことに対する批評であるとも解釈が出来ます。しかし、そうも解釈もできるが、ただ単にふざけているだけかもしれないとも解釈が出来ます。

基本的に、シニカルな映画だけあって、何かを描いているとしても、一捻りして解釈しないと意味は読みとれないし、深読みしてみても、それは単なる勘違いかもしれないという、とことん尻尾をつかませない映画になっています。そして、そのようなスタンスこそ、実はこの映画で本質やテーマだったとも解釈が出来ますがが、やはり本当かどうかは分かりません。そのため、一度はまってしまうと、いくらでも深読みが出来、とことんはまることができる、一筋縄では行かない奥の深さがある映画に仕上がっていると思います。

個人的には、そのような奇想天外なアイデアや、クールなスタンスを楽しみながらも、いつも下を向いてとぼとぼ歩いている鬱なロボットや、さばさばしているけどファニーなZooey Deschanel の演技が、かわいらしいなと思って見ていました。