陸奥ロックンロール紀行二日目:青森ロックフェスティバル「夏の魔物」

いよいよこの旅というか、この夏最大のイベント「夏の魔物」がやってまいりました。この「夏の魔物」なんと、19才の若者が青森でもロックフェスティバルを開催できないかと、個人でアーティストにアポを取り、本当に開催までこぎ着けてしまったというとんでもないロックフェスです。本人もロックバンドをやっているからか、日本を代表するような一騎当千のライヴバンドばかりが集まり、これはこの夏のロックフェスで最強の面子が集まったのではないかと思わせるほどでした。もう、これほどロック度の高いフェスは他にはあるまいと思い、遙々青森までやって来ることになったのです。

私は弘前泊で、シャトルバスで会場のつがる地球村に向かいました。シャトルバスは予約制で、当日駅前でお金を払ったのですが、スタッフが子供を連れたおばさんで、本当に手作りフェスなんだなと思いました。

会場のつがる地球村は、大変のどかな山の中にありました。ライヴ会場の円形劇場は、かなりの傾斜があるコロセウムのような会場で、どこで見ても非常に見やすかったです。ステージ前には柵があり、その周りではスタンディングで楽しめるし、後ろの席では、座って休みながら決めるなど、長時間のフェスにはありがたい会場でした。

天気予報では雨が降ると言っていたので、覚悟して雨具を用意していたのですが、予想に反し、一日中快晴で、真っ青な空と燦々と降り注ぐ太陽の下、のんびりとロックンロールを楽しむことができました。開始前には、ずっとフィッシュマンズが掛かっていて、もう始まる前から良い気分でした。

始まる前に、片言の日本語を喋る外人さんが、ぐだぐだのトークを始めたり、バンドの演奏前にフェスの名前の由来になったスピッツの「夏の魔物」の一部を掛けたりと、色々と小ネタを盛り込んでいました。

最初に出てきたのは、青森のうきぐもというバンドです。音楽性は、サニーデイサービスなどを少し思い起こさせるメロディアスなポップスという感じでした。しかし、曲良し、演奏良し、歌良しで、普通に良いバンドでした。

次に登場したのが、このフェスを主催した若者がヴォーカルをつとめるTHE WAYBARK です。音の方は、ハードなビートパンクという感じでした。まだキャリアも浅いバンドのようで、演奏の方はまだゆるいですが、勢いだけはありました。特に、ヴォーカルが、エレカシの宮本を思い出させるようなちょっとくねくねした動きでステージを動き回り、客を煽りまくって、盛り上げます。

圧巻だったのは、最後の曲「THE WAYBARK のテーマ」です。この曲の途中でヴォーカルが、突然ステージから柵を乗り越え客席に乗り込み、そのまま客席最上段まで上がってしまったのです。上でしばらく何やらやってると思うと、今度は客席を降りながら、周りにいる客の手を取って、ステージへと連れていくのです。そして、客席から連れてきた人たちやステージ前にいた人たちを、柵を越えさせ、ステージ上に引っ張り上げたのです。その後は、客とバンドが一緒くたになって、モッシュの嵐です。見ているこっちは、予想だにしない展開にポカーンという感じでした。

私は体力温存のため、客席に座り、のんびり見ていたのですが、思わずステージに駆け込もうかと思いました。まだ客が暖まっていない2番手のバンドにして、この怒濤の盛り上がりで、このバンドはこれから大きくなるかもなと思わされました。

次は、80年代デビューのベテランパンクバンドのニューロティカが演奏しました。このバンドは、いかにも80年代という感じの、おどけたようなスタンスのバンドでした。ヴォーカルの方はピエロの格好をしていて、MC で自虐的なことを言うなど、やや滑り気味な感じのおどけかたが、何とも80年代だなあと思いました。

次に登場したのがTHE NEATBEATS です。このバンドは、ロカビリー調のストレートなロックンロールを演奏するバンドです。噂には聞いていましたが、実際見てみると、無茶苦茶カッコ良かったです。私はまだ体力を温存しておこうと思っていたのですが、我慢しきれず前に出て、汗だくでツイストを踊っていました。

とにかく天気が良いので、売店でかき氷のイチゴミルクを買ってきてました。そして、次に登場した曽我部恵一の演奏を聞きながら、のんびりかき氷を食べていました。曽我部さんの演奏は、アコギ一本と、あとはサポートのパーカッションというシンプルなものだったので、超なごみながら聴いていました。しかし、真夏の青い空に、熱い陽差しの下、かき氷を食べながら、ゆったりと上質のポップミュージックを聴けるなんて、これ以上気分の良いことはこの世にはありえないなと思いました。「Love Sick」無茶苦茶良かったです。サニーデイ時代の曲もやってくれて、大満足でした。

お次は、元ナンバーガールのギターだった田淵ひさ子の新バンドtoddle です。今回は、田淵さんが歌っているのですが、声が非常に細いので、歌はバックの轟音に掻き消されてほとんど聞こえませんでした。音の方は、ディストーションギターが唸りまくるオルタナティブロックでした。

次は、個人的にこの日最も楽しみにしていたScoobie Do です。このバンドは、ソウルやファンクをベースにしながら、ロックンロールの荒々しさも兼ね備えている希有な音楽性を持つバンドです。細かく刻みまくるドラム、ファンキーなベース、カッティングの格好良すぎるギターによって作られるビートはとにかくタイトで、最高に踊れます。そこに凶暴なシャウトと、格闘技ファンならではの男前の台詞が印象的なヴォーカルが加わり、最高にファンキーでロックな演奏を繰り広げてくれました。

お次は、ドラムとギター兼ヴォーカルという女性二人組あふりらんぽが登場しました。このバンドは、音楽的には何とも形容がし難く、あえて言うならアングラなロックという感じでした。変幻自在の演奏に、意味不明の歌詞、そして唐突に挿入される耳をつんざくような叫び声など、何処かたがが外れたような、凄い演奏をしていました。最後は、アフリカで現地の人から習ってきたという歌を客と一緒に歌い、ステージ前のお客に肩車させたり、みんなで輪になって踊ったりしていました。編成はWhite Stripe と同じなので、そのうち対バンでもやってほしいなと思いました。

次に登場したのは、轟音ロックにニューウェーブサウンドをミックスした音楽をやっているPOLYSICS です。全員オレンジの繋ぎに四角いバイザーをつけるという奇抜なファッションで、ピコピコしつつも、轟音の演奏を繰り広げていました。CD で聴くと、ずいぶんニューウェーブな感じですが、ライヴは無茶苦茶激しくて、リズムも非常にタイトでした。

次は、元ギョガンレンズのPatch がギター兼ヴォーカル、元THEE MICHELLE GUN ELEPHANTウエノコウジがベース、元The Neatbeats の楠部真也がドラムというドリームチームのような面子が揃ったガレージパンクバンドRadio Caroline です。もう凄いプレイヤーが揃っているだけあって、演奏は無茶苦茶格好良いです。シンプルな8ビートを叩くだけで、無茶苦茶カッコ良いのは、リズム隊がいかに鉄壁かを物語っています。とにかく男気溢れる、ゴリゴリに重く激しいガレージパンクを聴かせてくれたので、もう身体が疲れ切っているのに、ついつい踊ってしまいました。

次のサイケロックバンドDMBQ の時は、もう体力を使い果たしたため、芝生に寝っ転がって聴いていました。夕暮れ間近の空を眺めながら、遠くで鳴っているロックを聴くというのも、なかなか乙なものでした。彼らは、最後は何故かドラムに火を付け燃やすなど、消防法を無視しているかのような行為に及んでいました。古典的なまでにロックですね!

次は、翌日のフジロックに出るため、急遽出番が早くなったギターウルフです。ギターウルフと言えば、日本が世界に誇るガレージパンクバンドであり、おそらく世界屈指のライヴバンドと言って良いだろうと思います。私はもう疲れ切って、ふらふらになっていたので、初めは遠くから聴こうかと思っていたのですが、ギターのセイジさんのアクションを見ただけで、血の温度が一度上がり、演奏を聴き始めると、居ても立ってもいられなくなり、思わず前の方に駆けだしてしまいました。前に出るのが遅かったので、身体が暖まった頃に演奏が終わってしまったのですが、何とこの日唯一のアンコールが飛び出し、「島根スリム」で周りのロック野郎達とモッシュを楽しむことが出来ました。

この頃になると、次第に暗くなり始め、いったいフェスは、いつ終わるのだと心配になってきます。予定では、9時に終わるという話だったのですが、この時点ですでに3時間ぐらい遅れており、果たして今日中に終わるのだろうかと心配になりました。この時点で、開始から10時間近く経っており、私は疲労困憊になり、そろそろ帰りたくなってきました。

次は、M.J.Q(遠藤ミチロウクハラカズユキ山本久土)です。遠藤ミチロウは伝説的なパンクバンド、ザ・スターリンのヴォーカルだった方です。遠藤ミチロウがギターを鳴らしながら、メロディー無しで、語りを入れるのですが、この語りの内容が、セックスとかその手の単語をやたらと使う下ネタのオンパレードで、本当にしょーもなかったです。また、最後の曲では、「革命の歴史は敗北の歴史だ」とか「万国のプロレタリアート団結せよ!」とか、いつの時代の話なんだと不思議になるようなことも語っていました。語りの内容は、古き良き反体制という感じで、全く現代性はなかったのですが、あれほどの年齢の人が、未だにセックスとか革命と言うことに対しては素直に敬意を表したいと思います。

次は、元ソウルフラワー・ユニオンの女傑うつみようこが率いるうつみようこ&YOKOLOCO BAND です。音楽的には、この日Led Zeppelin の「移民の歌」をカバーしたように、70年代のハードロックという感じでした。元ミッシェルのクハラさんのドラムが格好良かったです。

お次は、フラワーカンパニーズです。このバンドは、ちょっとセンチメンタルで、優しく無骨ななロックンロールをやっていました。演奏自体は、少々ゆるい感じもしたのですが、演奏の気合いが凄くて、その熱さに感激させられました。この前のバンドたちが、時間が押していたことで不機嫌になっているようにも見えたので、私もなおさら疲労がたまる感じがしたのですが、フラカンは、主催者や客を気遣うようなMC をして、なおかつ力一杯の演奏を見せてくれたので、気分的にかなり回復しました。ロックンロールでは、技術よりも、熱さがモノを言うなと思わされました。

その次に出てきたのが、The ピーズです。このバンドも、かなりキャリアの長いストレートなパンクバンドです。彼らは、MC もほとんどせず、黙々と演奏をしていました。

そして、ついに辿り着いたセミファイナルは、ジッタリン・ジンが務めました。このバンドは、バンドブーム時代に一世を風靡した、女性ヴォーカルのロックバンドです。ヴォーカルは、感情が籠もっていないクールな感じですが、裏打ちを多用したリズムなど、演奏は予想以上に熱く、タイトでした。みんなが知ってる「プレゼント」や「夏祭り」を演奏してくれたこともあり、もう観客も余りのフェスの長さにヤケクソ気味になっていることもあり、会場は、異様な盛り上がりを見せました。手の空いたスタッフも、ステージ前に上がり、他の客といっしょに輪になって踊るは、列車つなぎするはで、もう無茶苦茶でした。私は、客席の方から、その風景を眺めていたのですが、見てるだけで泣けてくるような多幸感溢れる盛り上がり方でした。

ジッタリン・ジンが演奏し終わったときは、すでに夜の11時ごろになり、ようやく最後のバンドであるシーナ・&ロケッツまで辿り着きました。このバンドは、キャリア28年という大ベテランのロックンロールバンドです。演奏も、シンプルなロックンロールという感じで、ガツンと来る感じでした。ヴォーカルのシーナさんは、大変なお年にもかかわらず、深紅のホットパンツで登場してくれました。お年がお年ですので、セクシーとかどうとかいうものではないのですが、そういうものを超越した凄みがありました。彼女の歌も、ハスキーを通り越したガラガラ声で、歌としてはどうかとおもいますし、演奏も後輩のバンドと比べるとゆるい感じはしましたが、やはり重ねてきた年輪の重みか、不思議な迫力がありました。私は、「レモンティー」を聴きながら、こいつが8ビートのマジックってやつかと思いました。

シーナ&ロケッツの演奏が終わった後、彼らは、まだ楽屋に残っている他のバンドのメンバーも呼び、いっしょにストーンズの「Satisfaction」を歌いました。はっきり言って、内田裕也の年越しライヴのような、ゆるゆるぐだぐだのセッションだったのですが、何分超超時間フェスを最後まで見たという達成感で脳内麻薬が大量に分泌していましたので、演奏がどうとか関係なく、超楽しく踊っていました。何故か、あふりらんぽの女の子がシナロケの鮎川さんに気に入られたようで、マイクを何度も向けられぐだぐだな歌を披露してくれました。そして、最後に、主催者の若者が挨拶し、朝10時から夜12時近くまで、14時間続いた青森ロックフェスティバル夏の魔物は幕を閉じたのでした。

進行や何だとかかんだとかは、かなりグダグダだったりしたのですが、そのゆるい雰囲気含めて、無茶苦茶楽しいロックフェスでした。快晴にめぐまれたという幸運もあったからですが、基本的には、見るに値しないつまらないバンドを、ただの一つも出さなかった、主催者のバンド選びのセンスが、大成功の秘密だったと思います。このフェスでは、ステージが一つしかないので、他のフェスと違って、自分が興味がないバンドの時に、他のステージを見に行くということができません。そのため、つまらないバンドを出てしまうと、非常に退屈してしまうと思います。しかし、今回は、腕に覚えのあるライヴバンドばかりが出演したので、聴いてつまらないバンドがありませんでした。これは、非常に希有なことで、本当に主催者は、凄い面子を集めたものだと思いました。

また、ステージが一つしかないので、客の途中移動がなく、あちこちうろうろしなくて良いので、演奏に集中しやすく、客に一体感が生まれるという部分もありました。最後あたりの多幸感というのは、やはりみんなが同じステージを見続け、長時間、共にロックしてきたという、ある種の共同幻想が生まれたから生じたものではないかと思いました。

個人的には、日常生活で自分の精神に溜まった汚穢を、綺麗さっぱり洗い流したという感じで、本当にすっきりしました。やはり、日々の生活で、知らず知らず、人間が駄目になっていく部分が出てくると思うのですが、ロックンロールによって、魂を浄化することは、生きる上でも、研究する上でも、必要不可欠だなあと今回は切実に感じました。やはり、偉大な先達のように、自分もロックンロールしなければならないと、大いに反省させられると共に、魂を奮い起こされたのでした。

音楽ジャンルではなく、アティチュードとしてのロックンロールとは何かと考えた場合、それはやはり、過剰であることではないかと思います。今回は、ギターウルフフラワーカンパニーズの演奏を見て、技術やセンスではなく、気合いや情熱の過剰こそが、人の心を動かすのではないかと実感しました。格好良くテクニカルなビートを叩くより、一打入魂で愚直に8ビートを叩く方が、人の魂を熱くさせることもあると。自分のように、能力もセンスもない人間は、愚直に、過剰に歯を食いしばり、過剰な労力、過剰な執念を注ぎ込むより他に、研究する道がないよなと、彼らの演奏を聴きながら考えていました。やっぱり、研究も、詰まるところところロックンロールみたいなものなので、極上のロックンロールを魂に補給し、何とか過剰に研究できるよう頑張ろうと思いつつ、会場のつがる地球村に別れを告げたのでした。