『下妻物語』

下妻物語 スペシャル・エディション 〈2枚組〉 [DVD]

下妻物語 スペシャル・エディション 〈2枚組〉 [DVD]


色々なところで肯定的な評判を聞いていた、『下妻物語』を見てみました。この映画は、茨城県の下妻で、一人孤独にロリータファッションを着ている少女が、偶然ヤンキー少女と知り合い、何故かつきまとわれているうちに仲良くなっていくという話です。

この映画の最大の特徴は、地方都市とロリータ、ロリータと暴走族という珍しい組み合わせを全面に打ち出していることでしょう。ただ、それを除けば、内容は古典的なまでに、正統派の青春映画だと思います。育った環境からか、人間関係に期待を持たない冷めた、あるいは心を閉じた女の子が、やたらと熱い友だちと関係を結ぶうちに、次第に自分の心を開いていき、孤立した状態から、自発的に他者との関係に巻き込まれていくようになり、なおかつ自分の存在を他者から承認されていきます。つまり、彼女は孤立した存在から、社会的な存在へと成長していきます。

物語は大変王道を走っていると思いますが、色々なハッタリをかまして、スパイスにしているので、余りコテコテ感はありません。ロリータファッション自体が華やかですし、映像の撮り方も非常に工夫されていました。映像は非常に凝っていたと思います。特徴の一つは、独特の色彩でしょう。彩度が高いのに、派手には見えず、色が濃くても、暗くは見えないと言う色彩設計は、非常に見事だったと思います。おそらく、相当事前に色々と試したのではないかと思います。

絵的なもう一つの特徴は、広角レンズを多用するところでしょう。茨城の農村風景が貧乏くさく映っていないのは、広角レンズを使って、非常に画角が広い画を作り、スケール感を出しているからでしょう。また、広角レンズを使って撮ると、画面の端が歪むので、異化作用が生じ、非日常感が出るからでもあります。鮮やかだけど、現実にはありえない独特の色彩、さらに広角レンズで撮った映像が、この映画の非現実感を高め、その非現実感が、この映画のコメディーとしてのリアリティー、さらにつまらない現実である地方の風景の読替に繋がっているだろうと思います。

また、『City od God』を彷彿とさせる構成や、CG を使った映像、アニメ、8ミリフィルムで撮った粒子の粗い映像、ロックな感じの字体のスーパーを入れるなど、合間合間に色々な遊びが挟まれていて、良いアクセントになっていたと思います。

また、この映画を見ていて感じたのは、尼崎や下妻がまるで遠い異国のように描かれ、地方の人々やヤンキーが、未開部族のように描かれていたことです。コメディーと言うこともあってか、非常に多くのクリシェーが飛び交っていたので、尼崎や下妻の人は怒らないのかと心配になりました。でも、ジャスコというのはちょっと古いですね。今、地方の「ファスト風土化」を描くなら、イオンにしないと。それにしても、つまらない日常=郊外=地方都市という構図は、流行なのでしょうか。

全体としては、非常に出来が良い青春映画だと思います。地方を舞台にして、ヤンキーを扱っていても、映像や音楽、編集で、きちんとサブカル、オシャレ映画に仕上げてくるあたり、監督のセンスの良さとインテリジェンスを感じました。『嫌われ松子』もかなり評判が高かったと記憶していますが、センスの良い有能な監督なのだろうと思います。