服部正『アウトサイダー・アート』光文社新書

アウトサイダー・アート (光文社新書)

アウトサイダー・アート (光文社新書)

メインストリームの美術界とは無関係なところで制作されたアウトサイダー・アートを紹介した本です。前半で、簡潔にアウトサイダー・アートの歴史を解説し、後半で、日本のアウトサイダー・アートの歴史、そして現在の状況が描かれています。この本の面白いところは後半です。日本では、アウトサイダー・アートを紹介した式場隆三郎が、障害者の社会福祉を充実させることを主眼において、彼らの作品を紹介したため、美術の問題ではなく、教育の問題だと見なされがちなのだそうです。

この本では、様々な作家の作品が紹介されており、それもまた興味深いものでした。渡辺金蔵が建設した二笑亭や石川謙二、ラファエル・ロネ、富塚純光、橋脇健一の絵画、関戸直明や八島孝一の彫像など、私が知らなかった興味深い作品を知ることができました。また、著者が美術館の学芸員ということで、個人的に面識のある作家の方々についての印象を書いている部分もありました。

アートとは、社会におけるトゲのようなものだと思う。アウトサイダー・アートは、目立たないが、ちょっと大きめのトゲだ。チクッと刺さったトゲは、心地よい刺激をもたらしてくれる時もあるし、心をえぐられる痛みを伴うこともある。その傷みもひっくるめてアートなのだ。癒しだとか、心のケアだなんて、気軽にいってほしくないと思う。
アウトサイダー・アートに限らず、アートというトゲは、私たちの心にさざ波を起こしてくれる。その驚きや不安がアートの力だ。
230-231頁

世の中のほとんどの人は、心にトゲを突き刺されることや、心にさざ波を起こされることは望んでいないと思いますので、アウトサイダー・アートは、ほとんどの人にとっては、単に気持ち悪かったり、下手くそだったりするだけの忌むべきものだろうと思います。しかし、美術というものに、何らかの過大な幻想を抱いていたり、絶え間なく新奇さを求める刺激中毒に陥っている者にとっては、大変興味深いものだと思います。

個人的には、この本でも書かれていたように、アウトサイダー・アートは、コンテクストに依存しないで制作されているので、現代美術にベットリとまとわりついている鬱陶しい批評性がなく、非常に清々しく、新鮮に見れるのではないかと思います。