クリント・イーストウッド『A Perfect World』

パーフェクト ワールド [DVD]

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脱獄した囚人と、人質の子供が、逃避行を続ける過程で次第に心を通わせていくというストックホルム症候群ものの映画です。この脱獄犯は売春宿で育ち、父親に暴力を振るわれてきた、子供は親がエホバの証人で、子供らしいことを何もさせてもらえなかったと、共に親から十分に愛されず、抑圧されてきたという共通点を持っています。そのため、脱獄犯は親が子供に暴力を振るうと異常にブチ切れ、人質の子供に好きなことをやらせてやります。そのため、子供は、脱獄犯を自分の解放者として、好意を持って行くわけです。そして、この囚人が脱獄して、逃避行を続けるのは、父親の愛を求めたためです。つまり、この映画は、親に愛されなかった子供が、それでも親の愛を求めるという映画であり、逃避行の過程で、束の間擬似的な父子関係が生じるという映画でもあります。

他方、クリント・イーストウッド演じる州警察の警察署長が、この脱獄犯を追うのですが、彼と脱獄犯の関わりが、この映画に奥行きを与えています。脱獄犯は少年時代から犯罪を犯していたのですが、それは、彼の育った環境が、非常に悪かったからです。署長は、この少年時代の脱獄犯を更正させようと試みたのですが、結局は失敗に終わってしまいます。この映画は、犯罪に関わらざるを得ない一人のホワイトプアの少年を、アメリカ社会が救えなかったという話でもあるのです。

また、州警察が善玉で、連邦警察が徹底的に悪玉に描かれているのも面白いと思いました。イーストウッドは、政府は信用できないのでしょうか?