ズリフィカール・ムサコフ監督『UFO少年アブドラジャン』

UFO少年アブドラジャン [DVD]

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1990年、まだソ連が崩壊する前のウズベキスタンSF映画です。この映画は、スピルバークの『E.T.』に感動した男性が、「ねえ、スティーブンさん」とスピルバークにある宇宙人の男の子の話を語るという形式で進んでいきます。物語は、ウズベキスタンのある農村にUFOが接近しているので、異星人と会っても接触しないようにモスクワから電報が届くところから始まります。しかし、村の人々は、この電報の内容をまともに理解できませんでした。翌日UFOが村に追放したとき、バザルバイという中年男性が墜落したUFO に乗っていた宇宙人の男の子を見つけます。バザルバイは、奥さんや親族に隠し子がいたと誤解されつつ、この男の子にアブドラジャンという名前を付けて、彼の家に引き取りました。

その後は、アブドラジャンの不思議な能力が色々と発揮され、丸刈りにされた頭に一瞬で髪を生やしたり、お金を増やしたり、奥さんのために徴兵された末っ子を瞬間移動で呼び寄せたり、乾いた畑に雨を降らせたり、巨大作物を実らせたり、鍬で空を飛べるようにしたりします。しかし、モスクワにアブドラジャンのことが知れたため、村に軍隊が迫る・・・、という感じで話が展開していきます。

この映画の最大の特徴は、映画全体に漂う何とも言えないユーモラスな雰囲気です。ウズベキスタンでは、こちらと少々映画の文法が違うのか分かりませんが、普通にショットを繋いでいるようでも、何となくシュールというか、不思議な雰囲気が醸し出されます。この雰囲気は、先ずナレーションのいかにも間が抜けたようなしゃべり方、登場人物が、例外なく純朴で、しかもちょっと頭がゆるいこと、そのため言動や行動がしばしば頓珍漢になること、時折変なショットが挿入されたりすることによるでしょう。しかし、ショットの繋ぎ方とか、タイミングとか、役者の演技とか、台詞とか、もっと微妙なところで、このような雰囲気が醸し出されている気がしますが、私には良く分かりません。しかし、何でもない場面でも、妙に可笑しくて、本当に不思議な雰囲気の漂う映画だなと思います。この監督、タルコフスキーも好きらしいですし、案外切れ者で、かなり計算尽くでこの不思議な雰囲気を演出している気もします。

この映画は、アブドラジャンという宇宙人の男の子が特異な能力を発揮するというスペクタクルな要素と、宇宙人の男の子がバザルバイ一家といっしょに暮らしていくうちに、心を通わせていくという家族ドラマ的な要素が混じり合っています。ただ、スペクタクルな要素は、特撮が非常に稚拙なので、スペクタクルというよりはシュールな気がします。

映像は、非常に綺麗に撮れていると思いました。これは、単にウズベキスタンの景色が綺麗だからではなく、色味や光の具合が良い感じにフィルムに定着しているからです。この映像の感じは余り見かけないものですが、ウズベキスタンの空気や光のせいでしょうか。この映画では、わりと高い位置にカメラが据えられることが多いように感じましたが、このカメラアングルは、映画にスケール感を与えていたと思います。

映画全体としては、我々が日頃見慣れている映画とは異質すぎて、正直訳が分からないと思う気持ちもありますが、この不思議でユーモラスな雰囲気は、他では見られないものだと思います。とにかく、面白かったです。