カレル・ゼマン『狂気のクロニクル』

チェコスロバキアのアニメーション監督カレル・ゼマン (Karel Zeman)の「狂気のクロニクル (Bláznova kronika)」を見ました。チェコカレル・ゼマン以外にも、イジートルンカヤン・シュヴァンクマイエルを輩出したアニメーション大国でした。チェコのアニメーションの歴史は、GON'S ANIMATION LIMBO というサイトで翻訳されているジャンナルベルト・ベンダッツィの『カートゥーン:アニメーション100年史』で、概略を知ることができます。

「狂気のクロニクル」は、17世紀にチェコやドイツを荒廃させた30年戦争を舞台にした映画です。この作品は、アニメーションというよりは、実写を基盤として、様々なアニメーションと合成した作品になっています。この映画では、30年戦争当時の銅版画が頻繁に用いられており、銅版画の一部を切り抜き、コラージュして動かすという手法が使われています。現在では、CG によってこのようなコラージュ的アニメーションを作るのが簡単になりましたが、この作品が作られた1964年では、当然コマ撮りで動かしているわけで、その苦労が偲ばれます。

また、背景が銅版画で描かれた街や風景で、手前に実写の人間が合成されるという場面も多かったです。圧巻だったのは、銅版画で描かれた兵士と実写の兵士がシームレスで並んでいた場面です。背景は銅版画で描かれた陣地で、その陣地の奥から手前にかけて兵士が並んでいるのですが、奥の兵士は銅版画なのに、手前側の兵士はいつの間にか実写になっているのです。この騙し絵的な手法は、思わずバロック様式の美術や建築を思い起こさせます。

物語は、ある農夫が皇帝軍に捕らえられ、無理矢理兵士にさせられるところから始まります。彼の最初の戦闘で彼ともう一人を除き軍が全滅したので、彼らはお宝を略奪して逃亡します。しかし、逃亡の途中で彼らは、たまたま知り合った一人の農婦と共に捕虜として捕らえられ、とある城に連れて行かれます。その農夫は略奪品の持ち主の服を着ていたせいで、侯爵と間違われ、戦況の変化によってその城のお姫様と結婚させられそうになります。しかし、彼は結局お姫様ではなく農婦を選び、城から出ていきます。そして、彼らが軍隊の手の届かない場所へと去っていったところで、この映画は終わります。

この映画では、戦争、軍隊、貴族、富や名誉というものが風刺的に描かれています。主人公は、お金や名誉や貴族の地位や、貴族の女性には頓着せず、いつも故郷に帰り、農夫に戻ろうとしています。これを共産主義的価値感だと言えるかどうかは分かりませんが、この映画には、キューブリック映画にあるような悪意あるユーモアが満ちあふれていたと思います。