マルセル・カミュ監督『黒いオルフェ』

1959年に公開されたマルセル・カミュ監督の映画『黒いオルフェ』を見ました。この映画は、ブラジルのリオのカーニバルを舞台にした恋愛劇です。カーニバルが舞台ということで、冒頭から終盤まではサンバのリズムとダンスで満ちあふれています。町中から、貧しい人々が住む山の上まで、出てくる人出てくる人、みんな歌い踊り、手拍子やタンバリンなどでリズムを取っています。この映画は、終盤までほとんどの場面で、多くの群衆が踊っているのですが、このモブシーンの多さが、この映画に猥雑とも言える生命感を与えています。逆に言えば、映画の大部分では、個々の登場人物やドラマは、群衆やダンスに埋没し、それほど目立たないとも言えます。

ドラマが一気に動くのは、ようやく終盤になってからです。この映画は、ある男から逃げて田舎から従姉妹のいるリオに逃げてきたユリディースが、リオのプレイボーイのオルフェと恋に落るという話なのですが、途中まで普通の恋愛劇かと思っていると、途中から雰囲気がガラリと変わります。この映画は、ギリシャ神話のオルフェウスの話を元にしているので、それまでのリアリティーと生命力にあふれた雰囲気から、神話的な雰囲気に変わるのです。そのため、物語には全くリアリティーが無くなり、元の神話を知らないと、意味が良く分からなくなります。オルフェは太陽の象徴で夜に死んでしまいます。しかし、新しい生命である子供たちが太陽を再生させ、夜明けと共にサンバで踊り出すところで、この映画は幕を閉じます。

音楽は全編サンバです。音楽は、アントニオ・カルロス・ジョビンルイス・ボンファというボサノヴァの超大物で、この映画がボサノヴァブームの火付け役になったそうです。

とにかくこの映画は、モブシーンのダンスや音楽が素晴らしく、音楽映画あるいはダンス映画として、非常に魅力的だと思いました。


黒いオルフェ(ポルトガル語版) [DVD]

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