ポン・ジュノ監督 『グエムル−漢江の怪物−』

韓国で大ヒットを飛ばしたという怪獣映画を観ました。米軍のろくでなし老人の命令で捨てられた薬品のせいで突然変異した怪物が、漢江周辺で人を襲い、餌にしていきます。その過程で一人の少女が怪物にさらわれ、彼女の家族が少女の奪還に向かうというのが大体の話です。

この作品の面白いところは、とにかく展開が一筋縄では進まないことです。この手の怪獣映画は、ご都合主義の連続で展開していくのが定番ですが、この作品では、主人公たちの行為はほとんど全て裏目に出て、全く物事が上手く進みません。

そもそも少女がさらわれたのは、怪物から逃げるときに父親が間違えて別の少女の手を引いてしまったためですし、主人公たちは存在しないウイルスに感染したと決めつけられ、警察に追い回されるお尋ね者になり、ちょっとしたうっかりで人が死に、韓国政府や米軍は全く頓珍漢な対策を取り、結局何もかも上手く行かないまま映画が終わってしまうのです。

葬式の際に悲しみすぎた親族がのたうち回るというギャグや、出来の悪い息子を擁護しようとする父親が、全く頓珍漢な弁護しかできず、それを聞いていた親族が、話の余りのぐだぐださに眠りこけるなど、ブラックなギャグも満載です。

このようにこの映画は、猛烈にひねくれており、ブラックな映画なのですが、にもかかわらず全体的な雰囲気は非常にカラッとしていて、面白く見れてしまいます。これは、監督が、アクション映画、エンターテイメント映画としての審級を破壊しないように、きちんと計算してお約束外しを行っているからでしょう。この辺りの見極めは非常に見事で、この監督のインテリジェンスには敬服させられました。

また、この映画は、孫のために祖父が全財産を費やし、姪のために叔父や叔母まで命を賭けるという、韓国の親族の紐帯の異常な強さを表していたり、米軍に対する猛烈な不信感が表れ出ていたりと、韓国映画ならではの要素もふんだんに盛り込まれていました。

映画としては非常に良くできていて、無茶苦茶面白かったですが、こんなひねくれまくった映画が大ヒットを飛ばすというのは、韓国は面白い国だと思いました。