スティーブン・スピルバーグ監督 『宇宙戦争』 2005年

スピルバーグ監督の『宇宙戦争』を見ました。この映画は、港湾労働者のトム・クルーズが、離婚した妻から息子と娘を一時的に預かっている最中に、宇宙人のロボットが暴れ出し、息子と娘と共に命からがら逃げ回るという話です。

ジャンルとしてはSF超大作になるのでしょうが、全編にわたって全くエンターテイメントしておらず、見ると憂鬱になるような映画になっています。というのは、この映画が、圧倒的に巨大な力に翻弄されながら、なんとか逃げ延び、生き残るという話だからです。主人公の一家は、何の変哲もない普通の人たちですので、できることは逃げ回るだけです。最初は車で逃げていたのですが、車を奪われてしまい、そこからは徒歩で逃げるしかありません。トム・クルーズは子供とコミュニケーションできない駄目親なので、特に反抗期の息子とすぐに喧嘩になりますし、まだ幼い娘は勝手なことをしたりして、彼を困らせます。

映像や演出は極めてリアルで、人間は宇宙人のロボットによって、虫けらのように情け容赦なく殺されていきます。力の差がありすぎるので、人間はほとんど何も出来ず、ひたすら一方的に蹂躙されるだけです。そのため、凄いCGを使ったスペクタクルな映像は、観客をますます憂鬱にさせるだけで、全くカタルシスを与えてくれません。画面の彩度が全体的に低く、なおかつ夜の場面が多いために、終始重苦しい雰囲気になっています。また、生きるか死ぬかという状況下で起こる、人間の残酷さも描かれているので、ますます重苦しい雰囲気が立ちこめることになります。

全編にわたり主人公家族の視点から描かれているため、全体的な状況はほとんど分かりません。観客も、一家と同様に、著しく情報が不足したまま、物語を追いかけていかなければなりません。一応最小限の情報は分かるようになってはいますが、全体的に極めて不親切な作りだといえます。

このように超大作にもかかわらず、全然エンターテイメントしていないために、余り評価は良くなかったようですが、映画の出来自体はかなり良いと思います。あのリアルで緊張感溢れる演出は、なかなかできるものではないでしょう。さすがスピルバーグです。

ラストは非常にご都合主義なのですが、ラストまでリアルだったら、余りに救いようがないので、娯楽作品としては必要な救済措置だったと思います。

面白い映画かどうかというアレですが、心ゆくまで無抵抗に蹂躙されたいと思っているような人にとっては良い映画ではないでしょうか。


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