「Punk's Not Dead」

チネ・ラヴィータでスーザン・ダイナー監督の「パンクス・ノット・デッド」というドキュメンタリー映画を観ました。 9時半に始まるからということもあったのでしょうが、観客はたった4人だけと仙台におけるパンクの人気のなさを思い知りました。以前ピクシーズの「loud QUIET loud」を観たときは、もっと沢山お客さんがいたのですが。

この映画のテーマは、パンクの歴史を振り返りつつ、現代のアメリカにおけるパンクの現状を探っていくことでした。70年代の初期パンクは、労働者、失業していたり、社会に上手く溶け込めず疎外感を味わっていた若者の不満が噴出したものだそうです。

パンクは、反政府主義、反資本主義などのアナーキズムと親和性があり、ダムドのメンバーの一人が言うには、「牙を持ったヒッピー」だということです。そのため、政治的には極左的なところがあるようです。

初期の時代にはパンクスはマスコミからも攻撃され、一般人からも嫌われ、攻撃を受けたそうです。他方、パンクス同志は非常に強い仲間意識を持っており、パンクバンドやファンが密接な関係を持ち、共同体を作っていたと言うことです。

たとえば、あるファンがパンクバンドにファンレターを送ったら、彼らのレコードと手紙が送られてきて、今度ツアーに行ったとき泊めてくれと頼まれ、それから彼や彼の友だちはパンクバンドを家に泊めていたそうです。また、あるバンドのメンバーは、ライヴ会場ではライヴより、他のパンクスと話していたことを思い出すと述べていました。

しかし、やがてパンクの人気が下火になり、80年代はパンクバンドが生き残るのは非常に厳しかったと言うことです。この時代には、パンクはアンダーグラウンドで生き残っていたそうです。この時期、マスコミはパンクを全く取り上げず、レコード会社も契約してくれないということで、パンクスが自分で会社を作り自分たちのレコードを売ることを始めました。つまり、「Do It Yourself」略して「DIY」精神に基づき、企業に頼らず、自分たちでやっていこうと活動していたそうです。

他方、80年代のパンクはハードでマッチョが主流だったそうですが、80年代後半にバッド・レリジョンがメロディーがある曲の良いパンクを始めると、NOFXRancid、OffspringやGreen Day などのバンドがアンダーグラウンドで人気を伸ばしていったそうです。

そして、パンクが再び脚光を浴びたのは、90年代初頭のニルヴァーナの大ブレイクだそうです。ここからパンクバンドが次々に商業的に大成功し、パンクのメジャー化が起こったそうです。

その結果、パンクファッションは珍しくなくなり、パンクファッション専門のチェーン店も出てきました。髪を染めるのも当たり前、パンクTシャツを着るのも当たり前になるなど、パンクファッションはCool になり、普通になりました。

また、企業はCMにパンクの曲を使い、パンクのフェスティバルのスポンサーになるなど、パンクの商業利用も進みました。このようにパンクが、企業と結びつくことを、パンク拡大のために有益と考える人も、パンクの元々の精神を損なうと考える人もいるようです。

また、SUM41Good CharlotteMy Chemical Romance のように、より楽しくみんなで盛り上がれるパンクを演奏し、商業的に大成功するバンドも現れました。彼らは、過去の偉大なパンクバンドを尊敬していますが、それらのバンドやパンクスから、本当のパンクバンドではない、商業的なポップバンドだと言われることに対し複雑な思いがあるようでした。

このように、パンクが一般化、商業化している一方で、昔ながらのアンダーグラウンドで、共同体的で、DIY なパンクシーンも残っているそうです。先ず、70年代に結成されたパンクバンドが、未だに数多く生き残り、リッチではなくても、地道な活動を続けているそうです。彼らは、大きな商業的成功は求めず、ツアーをし、ライブハウスを周り、若いパンクスたちを熱狂させています。彼らは、未だに活動を始めた当時の精神を失っていないと言います。

また、商業的な成功を全く求めず、アンダーグラウンドのみで活動する若いバンドも数多く存在するようです。また、パンクスが共同で住んでいる共同体の家のようなものもあるようです。そこでは、パンクスたちがわずかな収入や失業保険を持ち寄ったり、その家で行われるパンクのライヴから収入を得て、その家の運営費を賄っているそうです。彼らは、みんな仲間で、もめ事もないそうです。

パンクスは全般的にバンドもファンも貧乏で、とにかく金がないようでした。また、彼らは、学校や社会に馴染めず、疎外感を感じているような人々であるようでした。チアリーダーフットボールに対する敵意を語っていた人もいましたし、暴力的ではあっても体育会系の文化ではないという印象を受けました。とにかく彼らは、パンクから、自分らしく生きる、自分のやりたいようにやる勇気をもらったのだそうです。

個人的には、日本ではこのようなパンク的なものというのは余りないなと思います。

映画としては、とにかく多数のバンドメンバーやパンクスのインタビュー、さらにライヴ映像などが盛りだくさんで、良いものを見させていただいたと思いました。

内容的にははっきりした筋立てがあるわけではなく、多少散漫という気もしましたが、これはそれ自体、パンクという既に長い歴史を持つ巨大な運動の多様性を示しているとも言えます。ポピュラー音楽の歴史に関心がある人は見ても損はしない、充実した映画になっていると思います。