埴谷雄高『死霊Ⅲ』講談社文芸文庫、2003年

埴谷雄高の『死霊』を読み終えました。第七章「最後の審判」は、黙狂の矢場徹吾が首猛夫に多元宇宙の話をする章です。第八章「月光の中で」は、黒川建吉が津田安寿子に三輪与志の話する章です。第九章「虚体論−大宇宙の夢」は、津田安寿子の誕生会で黒服と青服が宇宙について語るという章です。

内容はさっぱり分かりませんでした。これも繰り返し読まないと良く分からない類の小説だと思います。『死霊』は埴谷雄高が高齢で亡くなってしまったため、結局未完で終わってしまいました。そのため、かなり尻切れトンボな感じで終わっているのは残念でした。

この作品の舞台は現実で、卑近な場所ですが、登場人物が話す内容や態度、反応、描写が大仰なので滑稽に感じられるところもありました。日常を舞台にして象徴的手法を用いて抽象的テーマや宇宙的テーマを扱う場合滑稽になるというところは、タルコフスキー映画に通じるものがあると思いました。

埴谷雄高は政治活動を行った結果、そんなものでは駄目だと思い、文学で世界を変えるという不可能な課題に挑戦したわけですが、そのような試みが、今の我々にはおそらく昔の人たち以上にドンキホーテ的に感じられるのはいささか逆説的だと思います。


埴谷雄高インタビュー
巨星墜つ −埴谷雄高を追悼する−

死霊(3) (講談社文芸文庫)

死霊(3) (講談社文芸文庫)