植芝理一 『夢使い』

植芝理一の『夢使い』を読みました。この作品は、夢使いという呪術師が、怪異と戦うという内容です。第一部の「虹の卵」編は、中学校で起こった連続想像妊娠事件を扱った話です。ある少年に誘惑された少女たちが、性的快楽によって虜にされ、古代の神を復活させるために利用されます。ユングのような精神分析と日本神話が混じった伝奇ものなのですが、この作品の特徴は、物語そのものというよりは、印象的な漫画表現の方にあると思います。

この方の描く少女は、極めて細長く伸びた体型をしています。つまり、胸や腰のくびれなどの凹凸のない体型をしています。この方はさらに、このようなすらりと細長い身体をした少女を、極めて細い、神経質とも言える描線で描いており、線の細さと少女の体型の細さが、少女の繊細さ、儚さを表現しているように思います。この作品には、小学生にしか興味がない夢使いが出てきますし、単行本の空き頁は少女の絵で埋め尽くされているので、この人は少女を描くことに並々ならぬ関心を抱いているようです。全く肉感はないが、エロティックではあるという少女の造形は、天野可淡などの球体関節人形に通じるものがあると感じました。

この方の漫画表現のもう一つの特徴は、メタモルフォーゼです。この方は、極めて神経質で細い描線で、非常に緻密に画面を描き込むのですが、その表現の真価は、人体のメタモルフォーゼに最も現れているように感じました。少女の身体が裂けて、その中から得体の知れないものが吹き上がるように飛び出てくるなど、この作品では、様々なものがメタモルフォーゼしていきます。かたちあるものが、不定型なもの、緻密に描き込まれた複雑なかたちに変化していくときの奔放な想像力は、他の漫画ではなかなかお目にかかれないもので、この作品の最大の見どころになっていると思います。

ストーリーはミステリー仕立てになっており、幼い少女同士の性愛や、少女の少年への性転換と性愛、近親相姦が描かれたりと、変態的な要素が盛りだくさんではありますが、テーマはいたって健全で、相手と完全に同一化する愛を否定し、自分とは異なる他者との愛を勧めるものになっています。

第二部は、錬金術によって作られた人造人間同士の恋愛を描いた話ですが、第一部よりも明らかにやる気が落ちており、線が荒れて、太くなり、描き込み量もかなり減り、ストーリーや描写も健全になっています。この話も、不死になって永遠に愛し合うより、限られた時間を大切に過ごした方が良いという、非常に健全な内容になっています。

全体的に、描写や個々の要素は変態的だけれど、物語そのものは非常に常識的で健全という、表面的部分と中味が大分ずれているところが面白いと思いました。


夢使い(1) (アフタヌーンKC)

夢使い(1) (アフタヌーンKC)