日本ポピュラー音楽学会第20回大会

成城大学で開催された第20回の日本ポピュラー音楽学会に行って来ました。成城大学の中には池があり、良い雰囲気でしたが、たまり水なのか水はかなり淀んでいました。

学会が開催されたのは一番奥の建物で、入り口で大会参加費を支払い中に入りました。大学の先生や学生だけでなく、音楽マスコミの人も来ていたようです。

私が聞いたのは、「ポピュラー音楽をめぐる現況〜音楽産業と音楽の文化的価値は危機に瀕しているのか?〜」というワークショップです。このワークショップは、10:00から13:20分頃まで行われました。なお、以下のレポートは私的なメモであり、内容を正確に伝えているわけではないことを、予めご了承下さい。

ワークショップは時間通り始まりましたが、開始10分前には会場には誰もおらず、始まってからもしばらくはほとんど人がいませんでした。その後、次第に人が増えてきました。しかし、個別報告を聞きに行く人が多いのか、人の出入りがかなり頻繁で、最初から最後まで聞いていた人はかなり少なかったような印象を受けました。

まず最初に神戸山手大学の南田勝也さんが、音楽産業の衰退、音楽に対する価値意識の低下によって音楽の危機が叫ばれているが、それはどの程度まで事実なのかを検証したいと、ワークショップの趣旨を説明しました。

次に、毎日放送音楽出版社ミリカミュージックの谷奥孝司さんが、CDの売り上げは下がっているが、パチンコやテレビ放送などでの楽曲使用で収益が上がるし、コンサートの動員は増えているので、CD以外のところでは音楽は良く聴かれているし、収益も得られているという話をしていました。CDも、野外フェスではよく売れるそうです。また、現在制作費が掛からず、ターゲットがハッキリしており、売り上げが計算できるコンピレーションアルバムをレコード会社は好んで発売しているそうです。また、マスメディアで著作権についての用語がきちんと使われていないので、著作権の正確な理解が必要だと主張されていました。

ちなみにミリカミュージックが権利を持つ作品は、JASRACのサイトで見ることができます。

http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/main.jsp?trxID=F00100

次に関西大学大学院の永井純一さんが、関西私大3校で行ったアンケート調査と青少年研究会が1992年と2002年に行った調査報告を比較して、大学生の音楽生活について明らかにしていました。ただし、サンプルが偏っているので、結果の妥当性は参考程度と言うことです。

その結果、CD購入の落ち込みが激しいこと、それ以外の音楽行動は余り変化していないこと、音楽にかける出費は減少傾向にあること、他の表現文化と比べて音楽は最も関心を持たれ、日常的に接触するメディアであること、しかし没入度や満足度はそれほどでもないことが明らかになったそうです。

また、音楽行動を因子分解することで、1. ライヴ指向 2. モバイル志向 3. レコード志向 4. ムード志向の四つの聴衆のタイプが浮かび上がってきたそうです。

これらの結果から、CDは買われなくなったが、音楽のプライオリティは下がっていない、しかし、聴き方が多様化してきたと結論づけていました。

次に大阪大学の木島由晶さんが、「音楽の文化的価値をめぐって〜比較文化の視点から〜」という報告を行いました。この報告で木島さんは、『レジャー白書』を使って、音楽の危機が進んだと言われるこの10年の比較を行っていました。

先ず余暇市場自体は1996年をピークとして低下しているが、この10年に出てきたニューレジャーを含めると余り市場規模は縮小していないとのことです。また、一年に一度でも行ったレジャーについては、1997年にカラオケ4位、音楽鑑賞8位だったのが、2007年カラオケ4位、音楽鑑賞10位、音楽会・コンサートが16位と余り変わっていないそうです。

余暇種目数は、全年代で20%くらい減少しており、特に若年層の絞り込み傾向が強いそうです。他方、6割の種類の平均参加回数が増加しており、何にでも手を出すのではなく、少数のレジャーに絞って、限定されたレジャーを集中して楽しむ傾向にあるそうです。

また、50-60代では、余暇にかける消費金額が増加しているのに対し、10代は激減しているそうです。正確な数字は忘れましたが、確か数分の一にまで激減するというかなり衝撃的な数字が提示されたと記憶しています。

また、ゲームでも音楽と同様に危機が叫ばれ、1997年頃から大作が売れなくなり、リズムアクションや脳トレWiiFitのようなゲームが売れるようになったそうです。音楽でも音楽フェスが大人気であることを考えると、ゲームでも音楽でも「体感消費」をする傾向が見られるとのことです。

その後休憩を挟み、大阪市立大学増田聡さんが、討論者としてコメントを述べていきました。谷奥さんに対してのコメントでは、1995年頃から「コンテンツ」という用語が使われ始めたこと、98年以降CD売り上げが下がる一方、音楽使用が多様化し、権利を抑えるというビジネスモデルが浮上してきたこと、海外では最初に音楽出版社、その後レコード会社ができたが、日本では最初にレコード会社ができ、その後音楽出版社ができたので、レコード会社の危機が音楽の危機だと見なされるのではないかということ、BGMなど見えない音楽利用でお金が回っていることを述べていました。

永井さんに対しては、音楽にお金をかける人も、必ずしも音源を買っているのではなく、iPodなどのハードにお金を書けているのではないか、また聴衆の四類型が大学生以外でも有効かどうかと述べていました。木島さんに対しては、レジャーの集中が起こるのは、インターネット検索やAmazonのお薦めのようなアーキテクチャ構造によるのではないかと指摘していました。

また、「コンテンツ」はかつてはプロだけが作れたが、90年代以降のデジタル化で、録音やCD制作、販売までが簡単にできるようになり、以前の受け手が送り手になることが容易になったと指摘していました。

それに対する返答で、木島さんが、印象論だが、今はコンビニ、携帯、ショッピングモールなど、何度も一度に手に入るAll in Oneなものを求める意識が出てきたのではないかと述べていました。

また、質疑応答の中で、谷奥さんが今自分を主人公にするための背景音楽が求められ、良く聴かれている、またアニメBGMはサントラが売れたり、二次利用もされるのにレコード会社は歌ばかりプロモーションをする、好きなミュージシャンにゲーム音楽の作曲家を挙げる人が多いなど、歌以外の音楽視聴が広がっていることを指摘していました。

また、増田さんは、音楽は様々なメディアで劇伴的に使われているが、「音楽」という概念は「絶対音楽」として使われる傾向があるので、現状を上手く把握できないと、これまで美学者が絶対音楽と周辺的音楽という二項対立で音楽を捉えてきた弊害を指摘していました、

全体としては、音楽が危機に瀕しているという言説には批判的であり、危機を叫ぶよりも、人々の音楽の受容や音楽ビジネスの変化を正確に把握するために、音楽を理解する枠組み自体を現状に合わせていく必要があるという問題意識が浮かび上がったワークショップだったという印象を、個人的に受けました。


ワークショップと時間が重なってしまったので、森川卓夫さんの「Perfume初音ミク〜『Vocaloid』化する『Android』たち〜」は、レジュメをもらうだけで、聴くことができませんでした。