物寂しい「夕暮れチロリロリン」

私は、ニコニコ動画で「夕暮れチロリロリン」を聴いて、MAD的な音楽には色々な可能性があるなと思ったのですが、それはこの曲が、物寂しさや切なさを感じさせるものだったからです。


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台詞を切り張りしてヴォーカルトラックを作るという手法は、ムネオハウスナードコア、あるいは音MADなど様々なところで使われていますが、私がこれまで聴いたことがあるものは、どれもネタ的な面白さや物珍しさ、奇矯さを楽しむという性格が強かったように感じました。そのため、これらは、余り部屋聴きには適さないと感じました。

また、アニメ声優の萌え声を使った音楽としては、音MADだけでなく、電波ソングも挙げられますが、電波ソングも基本的にネタ的な音楽であり、普通に聴いて楽しむという感じの音楽ではないように感じました。

しかし、「夕暮れチロリロリン」は、アニメ声優の萌え声による奇矯な台詞を切り張りして作った曲であるにもかかわらず、普通のポップスとして部屋聴きできる、しかも物寂しさや切なさを感じさせる曲になっていました。つまり、使っている手法自体は、ナードコアや音MAD、電波ソングと共通しているにもかかわらず、ネタ的ではない、普通に聴けるポップスとして成立していたことに、私はかなり新鮮さを感じました。もちろん、これは私の無知のせいで、ナードコア電波ソングにも、普通に聴ける曲は沢山あるのでしょうが、私がそのような曲を聴いたのは、この曲が初めてでした。

では、この曲が、何故普通のポップスとして成り立っているのかを考えると、ヴォーカルトラックはネタの塊でできているので、基本的にはバックトラックの影響だろうと思います。この曲のバックトラックは、ハウスとサンバをベースにして、ジャズ的なサックスを加えて作られていると思います。リズムは四つ打ちですが、キックは強くなく、パーカッションが加えられているので、ダンスビート感が弱くなっています。また、(多分) 洗練されたコードを使っているので、洒落た感じが出ていると思います。サックスもジャズ的でこれも洒落ています。

ハウスというダンスミュージックをベースにしながら、そこにサンバやジャズの要素を加えることで、この曲は軽快ながらも、洗練され、洒落た感じになっています。そして、このようなバックトラックが曲全体の雰囲気を支配することで、萌え声によるネタ的な台詞の切り張りによって作られた台詞まで、どことなくバックトラックの雰囲気を帯びたのだろうと思います。

私は、「夕暮れチロリロリン」を聴いて、バックトラックによってはMAD的に切り張りしてヴォーカルトラックを作っても、面白おかしいネタではなく、部屋聴きできるポップスになりうると思ったため、自分でも同じことをやってみようと思い作ったのが、先日ニコニコ動画にアップした、「Seventh Heaven」を使ったMAD的な曲です。つまり、「Seventh Heaven」という切ない曲のバックトラックを使えば、へんてこな萌え声を切り張りしてヴォーカルトラックを作っても、普通のポップス、しかも聴いていて切なさを感じるようなポップスになるだろうと思い作ってみました。


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そして、実際に作ってみて思ったのは、やはり自分の仮説は正しかったのではないかと言うことです。曲全体の雰囲気を作るのはあくまでバックトラックであり、ヴォーカルトラックが何であれ、切ないバックトラックを使えば、切ない曲になるのだと思います。

ただし、自分でMAD的に台詞を切り張りしてみて思ったのは、やはり普通のポップスのバックトラックよりは、ハウスやテクノなどのクラブミュージックをバックトラックにした方が、MAD的な曲は作りやすいと言うことです。というのは、ポップスはAメロ、Bメロ、サビという構造が明確にあるため、台詞の切り張りもそのような展開に合わせなければならない、つまり台詞の切り張りの自由度が低いのに対し、同じようなリズムやフレーズの反復によって作られるクラブミュージックでは、そのような制約が少なく、自由度が高いからです。

また、ダンスミュージックは、リズムやテンポが規則正しいため、台詞を合わせやすいと思います。変拍子の曲やテンポが頻繁に変わる曲だと、台詞をどこに配置して良いか分からなくなりがちだろうと思います。私は現在クラシックのピアノ曲に萌え声を合わせられないか試しているのですが、テンポが一定ではないので、非常に合わせるのが難しいです。

そのため、やはり台詞を切り張りしてヴォーカルトラックを作る場合、バックトラックはハウスやテクノにした方が合わせやすく、その故ポップスやロックではなく、クラブミュージックが、MAD的な曲のバックトラックに使われることが多いのだろうと思いました。しかし、ネタ的でない、ポップスとしての音MADというのは、もっと色々な可能性がありそうなので、たとえば「ハルヒオドル」のように、そのような試みが色々なされると面白いと思います。