ラジオで、ドイツ語ポップスを沢山流さなきゃダメ?

日本では、音楽業界が政府に働きかけることで、何とか生き残りを計ろうと試みていますが、ドイツでも、政府の規制によって、自国の音楽産業を振興しようという動きが出てきています。

現在、議論されているのが、ドイツにおいて、ラジオでかかる曲の一定の割合を、ドイツ語のポップスやロックに割り当てることをラジオ局に義務づけるかどうかについてです。

最近状況は変わりつつありますが、ドイツでは、長い間アメリカやイギリス産のポップミュージックが自国の音楽産業の中で支配的であり、ドイツ産のポップスは人気がなく、さらにドイツ産のポップスの多くは英語で歌われていました。いわば、アングロサクソンの英語ポップスに、自国の音楽産業、音楽文化を支配されていました。

すでに、フランスでは、ラジオ局は、ラジオ放送時間の少なくとも40%以上、自国産の音楽を流すように義務づけられています。ドイツの今回の措置も、このフランスモデルを参考にしたものです。現在出ている案では、音楽放送の35%でドイツ語のロックやポップスを流すように義務づけようとしています。もしかすると、この秋にこの規制が成立するかもしれません。もしそうなれば、政府がラジオ局をチェックし、一年後ラジオ局がこの割合を守っていないようならば、法的措置を取るとのことです。

Stern http://www.stern.de/unterhaltung/musik/index.html?id=531708&nv=hp_rt


現在の与党であるSPDドイツ社会民主党緑の党の連立政権は、この措置に賛成しています。賛成派として名前が挙がっている政治家としては、SPD の党首Franz Müntefering SPD連邦議会文化、メディア委員会の委員長Monika Griefahn緑の党連邦議会副議長Antje Vollmer、CDU の連邦議会調査委員会「ドイツの文化」の委員長Gitta Connemann などです。

一方で、連邦経済労働大臣のWolfgang Clement 、文化政務次官Christina Weiss緑の党の元党首、現経済労働省連邦政務次官Rezzo Schlauch などは、この措置に反対しています。


特に、Rezzo Schlauch は、心底音楽ファンらしく、賛成派に対し痛烈な批判を行っています。die tageszeitung のサイトに掲載されていた批判で彼は、元々ポップスやロックは国境に囚われない、アナーキーなものであり、国境を越えて、混じり合うものだと主張しています。彼は、現在のドイツのポップスやロックが元々アングロサクソンやアフロアフリカンから全面的に影響を受けて成り立ったし、逆にドイツのテクノが世界中でさらに発展していることを指摘しています。彼は、ポップスに国家の規制は必要なく、今回の規制は、他の国の音楽を閉め出し、音楽の多様性を損なう可能性があるとして、はっきりと今回の措置を否定します。

http://www.taz.de/pt/2004/10/02/a0144.nf/text.ges,1


「音楽の多様性」は、今回の件の一つのキーワードだと思います。というのは、反対派が今回の措置を導入する理由に用いているのも、「多様性の確保」だからです。CDU のGitta Connemann は、「音楽の多様性とドイツ語の保護が重要だ」と言っていますし、賛成派ミュージシャンのUdo Lindenberg は、「グローバル化が進むとしても、世界が多彩であり続けることに貢献することは可能だ」と述べています。

Die Welt http://www.wams.de/data/2004/10/03/341166.html


要するに、今回の措置が浮上したのは、アメリカが進めるグローバル化の波に、抵抗するためであるようです。中道左派SPD や左派の緑の党がこの措置を進めているのは、自国の音楽産業を保護するという保護貿易的な意図や、自国の文化を守るというナショナリズムと言うよりは、アングロサクソンの文化帝国主義に抵抗するという、文化多元主義的な意図に基づいているのでしょう。

今このタイミングで、このような案が浮上してきたのは、もしかすると、現在ドイツが経済的に調子が悪く、国際的な競争に勝ち抜くために、嫌々ながら従来の社会民主主義的な国のあり方を変えざるを得ないところへと追い込まれているからなのかもしれません。現在社会保障を削る政策をしているのは、本来社会民主主義を政策の根幹に据えているSPD と、さらに左寄りの緑の党です。そういう党が社会民主主義に反するような痛みを伴う構造改革的な政策を行うところまで追い込まれているわけですから、内心忸怩たる思いはあるのでしょう。今のドイツは、とにかくグローバリズムに押しまくられているので、それに対する危機感は当然強いでしょうし、それに対し対抗しなければという思いもあるのでしょう。特に、経済や社会政策では対抗しきれなくとも、せめて文化は守りたいという思いが。


文化的多元主義を守るために、政府が自国の文化を規制によって保護するというやり方が正しいのかどうか私には分かりません。ドイツの音楽産業が、日本では考えられないほどに、アメリカやイギリスのポップスに支配されているのを見ると、何らかの規制が必要だと思う気持ちも良く分かるのですが、ポップミュージックのような嗜好品を規制して上手く行くのかという気もします。

元々音楽は、感覚的な部分、つまり文化依存的な部分が多いメディアだと思いますし、ドイツ語圏はドイツ語ポップスを成り立たせるだけの市場規模を持っていると思いますので、音楽業界の自助努力でもドイツ語ポップスが自立することは可能だと思うのですが。Deutsche Welle の記事では、ドイツ産のポップミュージックを進行するための、ミュージシャンやレーベル側の試みも少し紹介されています。

たとえば、ドイツのロックバンドDonots は、有望な新人バンドを自分たちのサイトで紹介し、さらに自分たちのライヴの前座に起用することで、彼らの支援をしています。

Deutsche Welle http://www.dw-world.de/dw/article/0,1564,1343783,00.html

日本もそうですが、色々な意味で、現在のドイツの音楽業界も大きな変動期に入っているという感じがしますので、今後も、この問題は注視していこうと思っています。


と、最近音楽ネタばかりで、他の話が出てこなくなってしまいましたが、これからしばらく、ドイツの音楽市場について紹介するつもりです。Die deutschen Phonoverbände ドイツ音響連盟のサイトで公開されている、2003年のドイツの音楽市場についての詳細な分析 を先ずは紹介します。その後、2004年上半期の市場の分析についても紹介しようと思います。

そして、ドイツの音楽市場の特色を把握した上で、その後ドイツのポップミュージック全体について紹介をしたいと思います。正直、私のように知識のない人間がやっても良いものかと思いますが、日本ではドイツのポップミュージックはほとんど紹介されていないので、とりあえず有名アーティストをジャンル毎に紹介するだけでも、それなりに意味があるかなとは思うので、やってみることにします。

それにしても、早くWir Sind HeldenMia のようなドイツの良いバンドを日本の皆様に紹介したい!

音楽以外にも、ネタは山のようにあるのに、時間が無くてなかなか更新できないのは残念なのですが、今後も更新ペースはこんな感じだと思うので、暇なときにでもたまに来てみてください。