ドイツ最大のラジオ音楽賞 Eins Live Krone

金曜に、Eins Live Krone 2004 というイベントが行われました。このイベントは、Eins Live というラジオ局が主催するドイツ最大のラジオ音楽賞で、授賞式がOberhausen オーバーハウゼンのアリーナで行われました。インターネット投票で受賞者が決まるというシステムで、今回は80万人以上の投票があったそうです。この授賞式の模様が、テレビでも中継されていたので、私も途中から見ました。


イベントの進行は、この手のイベントの定番です。最初に有名人がプレゼンターとして登場し、ノミネート作品やアーティストを紹介し、投票結果がモニターに映し出されると、受賞者が客席からステージに上がり、謝辞を述べるというものです。もちろん、合間には様々な有名アーティストの演奏が挟まれています。

この賞の面白いところは、一アーティストが一つの部門にしかノミネートされていないことです。なるべく多くのドイツアーティストに賞を与えたり、ノミネートで紹介することを目的にしているのかどうか分かりませんが、とにかくグラミー賞などのように一アーティストが沢山の部門に重複してノミネートされると言うことはありませんでした。そのため、中には、ほとんど知名度のないアーティストもノミネートされており、紹介の際の観客が無反応という、寂しいこともありました。この賞は一般リスナーの投票で決まるということで、ノミネート紹介の際の観客の歓声で、だいたい結果が分かるという感じでした。


今回、ベストアルバムを受賞したのは、ドイツ語ロックニューウェーブの代表格であるポップパンクバンドSportfreunde Stiller シュポルトフロインデ・シュティラー『Burli』 (28,6%)でした。とにかく到るところで曲が掛かるし、浸透度が凄かったです。Sportfreunde Stiller は、今年のドイツロックで最も活躍したバンドの一つですので、受賞は順当だと言えると思います。

ベストアルバム賞には、他には以下のアーティストがノミネートされました。有名アーティストが多いということで、接戦だったことが分かります。

Dick Brave & The Backbeats 『Dick This』(24%)
Söhne Mannheims 『Noiz』(21,6%)
Rosenstolz 『Herz』(19,2%)
2raumwohnung 『Es Wird Morgen』(6,6%)


ベスト女性アーティスト賞は、黒人ソウル、R&B シンガーJoy Denalane が取りました(35,4%)。今年は、Max Herre と組んで「1ste Liebe」という70年代を彷彿とさせるソフィスティケートされたソウル風ヒップホップを歌いました。

Jeanette (27,8%)
Yvonne Catterfeld (19,2%)
Sandy (10,5%)
Valezka (7,1%)


ベストライヴアクト賞は、ポップパンクバンドWir sind Helden ヴィア・ズィント・ヘルデンが取りました(35,7%)。昨年デビューアルバム『Reklamation』でいきなり超ロングヒットを飛ばし、若手ナンバーワンというより、ドイツポップス界を背負って立つバンドになったWir sind Helden ですが、ドイツナンバーワンの超大物パンクバンドDie Ärtzte を接戦の上抑えての受賞ですから、その人気の程が伺えます。ちなみに、今スタジオでレコーディングをしているようですので、来年は2枚目のアルバムも聴けることでしょう。

Die Ärzte「Deine Schuld」(34,9%)
Beatsteaks「 I Don't Care As Long As You Sing」(16%)
H-Blockx 「Leave Me Alone」(8,8%)
Mia 「Hungriges Herz」(4,6%)


新人賞は、やっぱりというかSilbermond ジルバーモントが取りました(49%)。今年の新人賞は、マスコミ的にライバルと見なされ何かと比較されているJuli ユーリとの事実上の一騎打ちだったのですが、Silbermond は、投票の約半数を集め、Juli にも20%近い差をつけて圧勝しました。彼らがステージに上がったり、「Symphonie」を歌った時の反応を見ても、彼らの人気はかなり凄いものがあると感じました。

ただ、今回Silbermond は、(多分)実際に演奏せず、テープを流して口パクや当て振りをしていただけだったので、それについてはかなりがっかりしました。ライヴには定評のあるバンドなので、そんな事をする必要はなかったと思うのですが。

ちなみに賞の発表の前にインタビューがあったのですが、Silbermond のヴォーカルのStefanieシュテファニーにインタビューをする際、カメラが同じフレームに前の席に座っていたJuli のヴァーカルのEva エファをずっと入れていて、Eva が間が悪そうな顔をしていたのは面白かったです。二つのバンドを前後の席に座らせたのは、完全に意図的なものだろうと思います。

この二つのバンドは実際は仲が良いそうですが、常に何かと比較され、インタビューでいつもお互いのバンドのことを聞かれるのは、余り良い気分はしないだろうなとは思います。

Juli (32,0%)
Sido (8,2%)
Winson (7%)
Toni Kater (3,8%)


ベスト男性アーティスト賞は、レゲエをやっているGentleman が受賞しました(33,1%)。彼のシングル「Superior」は、かなり頻繁に耳にしました。でも、会場の反応を見ると、思った以上に人気があるようで少し驚きました。

この部門のプレゼンターは、Wir sind Helden Judith Holofernes Jean-Michel Tourette だったのですが、司会者にどのアーティストが一番好きかと聞かれて、Judith がMax Herre と答えていたので、やはりインディーロック好きの趣味はそうなのだと思いました。

Ferris MC (24,7%)
Max Herre (17,7%)
Mousse T. (13,6%)
Samy Deluxe (10,9%)


ベストシングル賞は、Max「Can't Wait Until Tonight」が受賞しました(32,6%)。Maxは、以前このサイトでも紹介したヨーロッパの国対抗の音楽コンテストEurovision のドイツ代表として出場し、この曲を歌いました。残念ながら、コンテストでは奮いませんでしたが、アコースティックな良い曲なので、支持を集めたようです。とは言っても、この部門は、他のノミネート曲が弱すぎた気もします。

個人的には、この間ライヴを見たVirginia Jetzt! が思った以上に支持を集めていたのが嬉しかったです。というか、今年の夏から秋にかけてかなり長期に渡って大ヒットしたBlue Lagoon 「Break My Stride」より上というのが驚きです。多分「Break My Stride」は耳には残るけれど、安っぽいという泡沫、一発屋系ポップスだったので、賞味期限が過ぎた後は、すぐに飽きられてしまったのでしょう。ポップス残酷物語という感じです。

Virgina Jetzt! 「Ein ganzer Sommer」(29,9%)
Blue Lagoon 「Break My Stride」(20,5%)
Schiller mit Heppner 「I Feel You」(10,8%)
Jam & Spoon 「Set Me Free」(6,2%)


ちなみに、ドイツポップスの賞だった今夜ですが、何故かイギリスのバンドTravis が曲を演奏しました。アコースティックで渋い音楽性、ヴォーカルの人の坊主頭と無精ヒゲ、歌うときの表情や歌い方も、Coldplay にそっくりで、どっちがどっちか区別が付きにくいなと思いました。


そして、今年のベストアーティスト賞は、ゴシックメタルバンドOomph! オームフが、他のベテラン大物アーティストを抑えて受賞しました(37,4%)。このバンドのヴォーカルDero は、トゲトゲの頭に尖ったもみあげというかなり凝った髪型をし、ステージ上では不自然な表情を作るなどサービス精神旺盛で、音もメタルとは言っても、見かけと比べるとかなりポップかつメロディアスで、正直かなり際物臭いのですが、今年は「Augen auf!」という曲が大ヒットしましたし、凄く人気があるようです。

Die Fantastischen Vier (24,8%)
Die Toten Hosen (20,7%)
Rammstein (9,5%)
Seeed (7,6%)


そして、最後に特別賞としてドイツのパンク歌手Nina Hagen ニナ・ハーゲンにライフワーク賞が贈られました。彼女は既に80年代から活躍している人ですが、とにかくもの凄くインパクトのある人です。受賞の前に少し過去の映像が映ったのですが、ファッション、歌い方、身ぶり手振りなど、ビョークを数段巨悪、凶暴化させたという感じで、とても我々と同じ人類に見えませんでした。今でも、厚化粧をし、髪にかわいらしい花を付けて現れる年齢不詳な感じの彼女は、美輪明宏に通じる妖怪っぽさがあります。

このイベントの最後に、Nina Hagen と、MiaMietzeOomph! のDeroH-BlockxHenning Wehland が競演したのですが、とにかくNina Hagen のパフォーマンスが凄かったです。上手いとか下手とかを超然とした歌唱、変な表情、変なアクション、何度も繰り返しマイクを口に突っ込んでくわえるなど、やりたい放題、暴れたい放題です。マイクを口に突っ込んでガボガボ言うのは、キングブラザーズのマーヤもやっていましたが、もう老齢に差し掛かろうかという女性がやると、インパクトが違います。私は、とにかくとんでもねえ人だなあと唖然としながら、笑っていました。彼女の人生自体賞が送られるのも、納得が出来ると思わされる、圧巻のパフォーマンスでした。


正直、賞としては、どういう意義があるのか良く分からないものでしたが、出てくるのが(Travis を除き)全部ドイツのアーティストということで、面白かったです。というか、ドイツの音楽シーンは、ここ半年でかなり面白くなってきたという実感があります。新しい優れたアーティストが今どんどん表に現れているところなので、シーンが動的で面白いです。やはり、アメリカやイギリスとも方向性が違うし、ドイツ語で歌うアーティストも増えてきたので、その違いが余計に見えるようになってきました。伸び盛りの新しいアーティストが多いドイツのポップスシーン、今後も面白いことになってくれそうです。