ドイツ音楽市場2003年(5)

CDアルバムの価格別売り上げ数

先ずは、画像でアップした図表を見て下さい。この調査では、CDアルバムの売り上げ数価格別に分けられています。全てのアルバムは、CD Full-Price (高価格CD)CD Mid-Price (中価格CD)CD Low-Price (低価格CD)、そしてCD TV und funkbeworbene Compilation (テレビ、ラジオ宣伝用コンピレーション)に別れています。


ただ、この統計を見る時に困るのは、高価格、中価格、低価格とはいくらのことなのか、基準が書いていないことです。そのため、この統計をどう解釈して良いのか、今一つはっきりしなくて困ります。しかし、個人的な経験から、多分こういうことではないかと推測するぐらいの価格を書いてみます。


先ず、Full-Price (高価格CD) で、念頭に置かれているのは、おそらく発売すぐのアルバムだと思います。ドイツには再販制がないのでCDの価格に定価はないのですが、アルバムの新譜は、だいたいどこでも15〜20ユーロくらいの値付けがされています。同じタイトルでも、小売店によって価格が若干違いますが、新譜の場合の違いは、せいぜい1〜2ユーロ程度の違いにとどまる場合がほとんどで、小売店毎の価格差はそれほど大きくはありません。そのため、Full-Price のCDは、日本で言えば定価販売に近い状態にある新譜のCDのことであると思います。

次にMid-Price (中価格CD)についてですが、ドイツでは新譜は発売から一定の期間が経つと、次第に価格が下がっていきます。この価格の下がり方は、小売店によってまちまちです。だいたいのアルバムは、10ユーロ代前半で下げ止まり、ややセールという感じのアルバムで10ユーロを少し切る9.8ユーロという感じでしょうか。なので、個人的な推測では、だいたい10ユーロ代前半、せいぜい10ユーロ前後ぐらいまでがこの価格帯に分類されているのかと思っています。まあ、根拠はありませんが。

Low-Price (低価格CD)は、セール品、つまりユーロ一桁代で買えるアルバムだろうと思います。一桁代まで下がるアルバムは、過去大量に売れた人気盤、有名盤の再版、あるいはベスト盤などが多いです。しかし、どの盤が、どこで、幾らで売られるかは本当にまちまちで、時期によっても値段が大きく変わります。

また、大型量販店やアマゾンでは、恐ろしいことに、安いときはアルバム一枚5ユーロを切る値付けがされていることもあります。そのため、ドイツでは、セール品に的を絞っていれば、自分のほしい旧譜は、日本では考えられない低価格で手に入ります。


また、表を見る時に注意しなければならないのは、それまで普通のアルバムといっしょに統計が取られていたコンピレーションアルバムが、97年から他のアルバムと分けられたことです。そのため、96年以前のデータと97年以降のデータは、直接比較が出来なくなっています。

ちなみに、96年から97年に掛けて、低価格CDの売り上げ数が増加しているのに対し、高、中価格CDの売り上げが激減しているので、コンピレーションアルバムの価格帯が中高価格、特に高価格であったことが良く分かります。

ドイツでは全般的にコンピレーションアルバムが多い国で、新譜、旧譜にかかわらず、ありとあらゆるジャンルのコンピレーションアルバムがあります。コンピレーションアルバムの売り上げの内訳が出ていないので、断言は出来ませんが、おそらくコンピレーションアルバムの売り上げのかなりの部分を、最新のヒット曲を集めた、若者向けのコンピレーションアルバムが占めるのではないかと思います。何故なら、後述するように、コンピレーションアルバムの売り上げの低下の仕方が、新譜アルバムやシングルと似ているからです。


先ずこの統計を見て分かるのは、高価格CDコンピレーションアルバムの売り上げが激減していることです。上で見たように、コンピレーションアルバムの多くは、高価格CDに属すでしょうから、高価格のCDの売り上げが激減していることが分かります。

高価格CDは、前年比で約1000万内(約18%)、全盛期の98年と比べると約3000万枚(約40%)の売り上げ減です。コンピレーションアルバムは、前年比で約1100万枚(約40%)、全盛期の97年と比べると、約3000万枚(約66%)を越える売り上げ減になっています。


これを言い替えるならば、新譜、もっと言えば流行の音楽の売り上げが減っているということです。最新の流行音楽が売れなくなるという傾向は、アルバムよりもシングルの売り上げの低下の方が遙かに深刻であるという傾向と一致しています。この調査では、ここでも、違法コピーがこの売り上げ低下の主な理由であるとされています。


また、この調査では、中価格CDの売り上げが減少していることを挙げて、基本的にCDの価格は売り上げ減少の決定的要因とはならないと分析していますが、これは明らかに無理のある結論であると思います。

中価格CDの売り上げの減少は、前年比で340万枚(約11%減)とやや大きかったですが、図表を見ればすぐに分かるように、高価格CDコンピレーションアルバムの売り上げの急激な低下とは全く異なる動きを見せています。97年以降の売り上げはやや低下傾向にあるという程度で、大きな動きはありません。さらに、低価格CDの売り上げもそれほど低下していませんし、やはり価格と売り上げ低下の間には相関関係があると解釈する方が自然だと思います。


つまり、この価格別のアルバム売り上げの推移からは、高価格のCD、つまり発売されたばかりの新譜の売り上げが急激に落ち込み、中、低価格CD、つまり発売されてから時間の経った旧譜の売り上げは安定しているという傾向が読みとれると思います。