安野モヨコ『ハッピー・マニア』

ハッピー・マニア (3) (祥伝社コミック文庫)

ハッピー・マニア (3) (祥伝社コミック文庫)

安野モヨコの有名な漫画『ハッピー・マニア』を今更ながら、途中まで読みました。この漫画は、恋愛市場で利潤を貪欲に追及するホモ・エコノミクスの女性重田さんの恋愛を描いたコメディーです。重田さんは、恋愛市場における利益最大化を、世俗内禁欲的で、信頼を基礎とする近代的な方法でなく、バザール経済的に、不信を基礎とする前近代的な方法で追及しているので、短期的な利潤に目がくらんで、長期的に見ると損ばかりしています。また、彼女は、利潤の源泉を、自分ではなく、彼女がつき合う男性に置いている、欲望は旺盛だが、自我はない人です。

彼女の行動は全て目先の利益にのみ向けられており、なおかつ他者依存的なので、自分で状況を制御することができず、他者(男)に利用されるばかりです。彼女は非常に駄目な人間で、他人をすぐに裏切り、他人から騙され、二股を掛けられたり、バイトを首になったり、ヤリ捨てにされたり、不倫に走ったり、水商売で働いたりしています。

今作品は、基本的に他者依存的な重田さんの駄目さ加減を描いており、根っこの部分では、同作者のかなり辛辣な作品である『脂肪と言う名の服を着て』と似たような内容であると思います。ただ、『ハッピー・マニア』は、重田さんの性格が明るく、やたらとポジティブで、なおかつコメディーであると言うことで、『脂肪という〜』と比べると、楽しく、笑いながら読むことができます。ただ、作中で起こっていることは、重田さんにとって、基本的にろくでもないことばかりで、彼女は一向に幸せにはなりません。しかもそれらは基本的に、他人のせいではなく、重田さんの自業自得なのです。

また、この作品には、重田さんのことを愛する高橋という男性がいることも、この作品に救いを与えていると思います。彼は、地味だけど、誠実に重田さんのことを愛する男です。重田さんは、他の男と寝まくっているのですが、高橋は、それでも重田さんを愛し続けるのです。現実にこんな都合の良い男がいるとは思えませんが、女性の駄目さを全て許容してくれて、一途に愛してくれる男性がいるという設定も、重田さんの状況の悲惨さを緩和していると思います。

私はまだ、水商売で働き始めたところまでしか読んでいないので、今後重田さんがちゃんとした恋愛をするようになるのか、それとも彼女の駄目さを肯定する方に行くのか、はたまた益々駄目をこじらせていくのか知らないのですが、先を読むのが楽しみです。