飛浩隆『象られた力』

飛浩隆さんの『象られた力』を読みました。この短編集は、80年代など昔書かれた作品を収録しているそうです。

最初の「デュオ」は、身体がくっついた天才双子ピアニストの背後にいる存在に調律師のイクオが気づき、その存在から双子を解放しようとする話です。

次の「呪界のほとり」は、意志すること全てが実現する呪界から間違って外にやって来た万丈と竜のファフナーが、呪界に憧れる老哲学者アダム・パワーズに引っ張られ、もう一度呪界に帰るという話です。

次の「夜と泥の」は、ある植民惑星で、一年に一度夏至の日のナクーン河口に現れる少女をめぐって、植民を司る三つの衛星が奇妙な争いを繰り広げるという話です。

最後の表題作「象られた力」は、人を魅了して止まない図案を生み出した惑星百合洋とその図案が広まった惑星ムザヒーブとシジックが滅んだ理由を、明らかにしていく話です。

この話の根幹を成すアイデアは全く荒唐無稽なものなのですが、クライマックスの畳掛けと、残酷描写、滅びの美学とも言うべき壮麗なカタストロフの描写は、『グラン・ヴァカンス』に勝るとも劣らないものがあり、さすがにSFファンから賞賛の嵐を受けただけのことはあると思いました。

「デュオ」「夜と泥の」「象られた力」の三編では、かたちのない存在が、人間などを媒介として自らの目的を達成しようとするという話です。つまり、アルゴリズムが主体であり、人間は彼らに利用される客体に過ぎないと言う話です。『廃屋の天使』シリーズでも、アルゴリズムの自己増殖というモチーフが見られるので、飛浩隆さんの好みの話なのでしょう。

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)