何故音楽ソフトの売り上げは、90年代末以降落ちたのか?

90年代末以降、先進国では全体的に音楽ソフトの売り上げが、激減してきました。*1 この理由は、CD-Rによる違法コピー、あるいはファイル交換ソフトによるMP3の氾濫にあったというのが、主要な要因だとされてきたようです。しかし、日本でのインターネット利用者に対するファイル交換ソフト利用経験者がたった12%であると推定されていることを考えると、ネットでの違法ダウンロードが原因だという説は、余り説得力がありません。

むしろ、CD-R の方が、影響は大きかったのでしょう。しかし、CCCDの導入が、CD売り上げ減少にほとんど影響を及ぼさなかったことを考えると、CD-Rの影響もそれほどではなかったとも考えられます。


それ以外の要因としては、音楽を消費する若年世代が、高齢化したからという説もあります。

で、昨日のミスチルとかの例のようにそもそも売上が減少している、自分が一番大きな理由だと思っているのは、世代的な部分。

たとえば自分はその前後より人口が突出している団塊ジュニアど真ん中世代ですが、CD売上がピークだった1998年以降って、平均年齢的に言ってその世代がちょうど結婚・出産する時期です。それまで可処分所得を概ね音楽に突っ込んでいたような連中も、家庭を持ち子供を産み、ファミリーのために貯金するやら、嫁さんに財布握られるやらでその支出が絞られる。

Waste of Pops 80s-90s


この若年人口の変動や消費傾向の変化は、日本レコード協会2006年度「音楽メディアユーザー実態調査」を見ると、CD の売り上げに非常に大きな影響を与えていることが予想されます。年代別のCDセル市場におけるマーケットシェアを見ると、中学生から20代社会人のシェアは、1998年には57・5%だったのが、2006年には33・6%にまで落ちています。そのため、1998年には倍以上の差があったにもかかわらず、10〜20代と30〜40代のシェアが2003年にはついに逆転しています。また、50〜60代ともほとんどシェアの差がなくなっています。全体的に、CD購入者の高齢化が、ここから伺えます。

この調査は、東京30キロ圏のみを対象とした調査であり、この推定値が、全国で当てはまるとは限りませんが、大体の傾向を示していると考えることはできるでしょう。このことから、若い世代がCDを買わなくなったので、CD売り上げが激減したことが伺えます。ただし、他の国で、この要因が当てはまるかどうかは、良く分かりません。


個人的に、音楽ソフト売り上げ激減のもう一つの大きな要因は、90年代以降、ポップミュージックの分野で新しい音楽が全く出てこなくなったことにあるのではないかと思っています。基本的に、消費者の消費欲を刺激するためには、常に新商品を投入し、過去の製品と差異を付加することが必要であると思います。しかし、ポップミュージックは、90年代でだいたい音楽的な進化が止まり、00年代には、音楽的な新ジャンルの登場、あるいは新たな音楽ジャンルの流行は全く起きていません。

かろうじてヒップホップは00年代も音楽的な差異を作り続けていたと思いますが、それもほぼ打ち止めのようですし、現時点では、ポップミュージックの可能性はだいたい発掘され尽くされ、ポップミュージックの進化は止まったと言えそうです。

こうなると、現在の音楽を、過去のダサイ音楽とは違う、最先端の格好良いアイテムだと消費者に信じ込ませ、彼らの欲望を刺激することができなくなってしまいます。そのため、音楽をアイテムとして消費していた人(つまりほとんどの人)にとって、音楽は魅力的ではないものとなったのではないかと思います。

この仮説を実証するようなデータを、私は何も持ち合わせていませんが、この10年ほとんど何も進化しなかった世界のポップミュージック・シーンを見ると、音楽に対する消費欲が刺激されるわけもないと感じたので、根拠もなくそのように想像しています。

*1:日本レコード協会の統計をざっと見ると、イギリスは売り上げが変わっていないようですが、何ででしょう。