許斐剛 『テニスの王子様』

「週間少年ジャンプ」で長期連載している人気漫画『テニスの王子様』をついに全巻読破しました。この漫画は、男前(?)の登場人物が多数登場し、多数の女性ファンを抱えていると言われている漫画でした。作者の絵が余り上手くないこともあり、私はずっと注目してこなかったのですが、最近面白さが急上昇しているのでついに全巻読んでしまいました。

この漫画は、最初の頃は普通のスポーツ漫画でしたが、ジャンプ漫画らしくストーリー展開が極めて行き当たりばったりです。たとえば、地区大会から始まり、同じ学校や同じプレイヤー同士が何回も当たるということが頻発しています。特に、現在行われている全国大会決勝戦は、関東大会の決勝戦と同じく組み合わせです。しかも、主人公たちのチームはすでに相手校に一度勝っているため、強大な相手をいかに倒すかという緊張感は全然ありません。普通なら、一番最後の試合に最大最強の敵が待ち受けているという構図になるはずですが、今作品では、主人公のチームに敵が挑むという極めて珍しい現象が起きています。また、思わせぶりな描写が多く、話が余り進まないので、基本的にはだらだらした漫画だといえます。

この作品は、基本的に週間少年漫画らしく、次週への引きと尻上がりの盛り上がりを追求して、その場その場で行き当たりばったりに描き続けられていったので、『ドラゴン・ボール』のように描写や技がインフレしました。これは、少年漫画では良くあることなのですが、尋常でないのは、そのインフレの激しさです。この作品はインフレする前は余り面白くありませんが、インフレが閾値を超えたことで、大化けしたと思います。

この作品のエポックメイキングとなり、ある意味伝説的な試合になったのが、全国大会準決勝で行われた河村隆石田銀戦です。この試合では、波動球という強力な威力を持つ球を打つことができる石田銀が、河村隆を一方的にパワーで圧倒するのですが、球の威力が余りに凄いために河村は吹っ飛ばされてしまいます。しかし、吹っ飛ばされると言っても、ラケットが弾かれるというレベルではなく、身体ごと吹っ飛ばされるのです。それも、勢いで後ろに倒されるというレベルではなく、客席まで吹っ飛ばされるのです。最終的にはおそらく数十メートルは、吹っ飛ばされていると思われます。

漫画では多かれ少なかれ非現実的で、大袈裟な描写がされるものですが、ここまで振れきっているものはなかなかありません。そのため、一応テニスの試合なのですが、登場人物は血まみれになりながら試合をすることになります。この試合は結局、一方的に押されていた河村が放った強力な球を受けた石田銀の腕が折れて、途中棄権して終わります。最初から最後まで、読者の予想をことごとく凌駕するデタラメな展開に、私もすっかり魅了されてしまいました。

この波動球以外にも、全く弾まないので絶対入る「零式サーブ」や、球にもの凄い回転をかけることで、必ずアウトにできるという「手塚ファントム」、高速移動し相手のガットを破ってしまう「雷」など、絶対返球できないような技がどんどん現れてきており、ほとんど能力バトルの様相を呈しています。

全く先が読めない奔放な展開とほとんどギャグに近いほどのハッタリ力とインフレさ加減を考えると、この作品はすでにスポーツ漫画の域を超え、板垣恵介の『範馬刃牙』や山口貴由の『シグルイ』、漫画太郎先生の『地獄甲子園』、故石川賢大先生の諸作品と同じジャンルに含まれるところまで成長したと思われます。このように『テニスの王子様』は、ハッタリが効いた描写の強度のみで勝負する漫画として、今乗りに乗っているので、性格の歪んだ漫画読みは必読の面白漫画になっていると思います。

なお、『テニスの王子様』をより楽しみたい人は、架神恭介さんのサイト「男爵ディーノ」を見ることをお薦めします。


テニスの王子様 37 (ジャンプコミックス)

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