古田靖 『瀬川晶司はなぜプロ棋士になれたのか』

ハチワンダイバー』の副読本として、古田靖氏の『瀬川昌司はなぜプロ棋士になれたのか』を読んでみました。この本は、奨励会3段まで上がりながらプロになれなかった瀬川晶司さんが、特例としてプロ入りが認められるまでの過程を描いたルポルタージュです。

元々は瀬川さんが、年齢制限で奨励会を退会した後、アマチュアとしてプロに勝ちまくったために、年を取ってから強くなった者にもプロになるチャンスを与えるべきだという声が上がったところから事が始まったそうです。その過程で重要な役割を果たしたのが、読売新聞文化部の記者で竜王戦の担当者西條耕一さんだったようです。新聞社は将棋連盟の大口スポンサーなので、発言力が大きいようです。

また、瀬川さんのプロ入りを後押ししたのが、将棋連盟の収入減だったようです。将棋人気の低下に伴い、将棋連盟の収入も次第に低下しており、人気回復のイベントとして瀬川さんのプロ入りが利用されたようです。

結局瀬川さんは、プロ編入試験に勝ち越してプロ入りを認められます。その編入試験の中でも、第四局の中井広恵女流6段との試合が白眉と言えると思います。女流棋士奨励会を勝ち抜いたプロ棋士ではないので、将棋連盟の正会員ではなく、棋士総会の議決権、議題を提案する権利、傍聴する権利すらありませんでした。しかし、女流棋士たちの中にもプロ棋士を破るほど強くなった者もおり、彼女たちも正会員として認めてほしいと願っていたそうです。

瀬川さんと中井女流六段との対極は、中井さんが瀬川さんをあと一歩のところまで追いつめながら、致命的なミスにより敗北したというスリリングなものだったそうです。

ハチワンダイバー』の主人公菅田健太郎も、瀬川さんと同様に奨励会3段まで行きながら、あと一歩でプロに手が届かなかった元奨励会員です。奨励会まで行きながらプロになれなかった者の挫折感がどれほど大きなものか、そしてプロになれないことがどれほどの社会的リスクを伴うのかは、大崎善生の『将棋の子』で余すところなく描かれています。

菅田やそよたちの敵である鬼将会は、元奨励会員によって作られ、プロを超える棋士集団になろうとしている集団であるため、今後も『ハチワンダイバー』がプロになれなかった奨励会員という問題を中心として進んでいくことは確実だと思われます。この本や『将棋の子』を読んでおくと、『ハチワンダイバー』の背景がより深く分かり、より面白く読めるのではないかと思います。



瀬川晶司はなぜプロ棋士になれたのか

瀬川晶司はなぜプロ棋士になれたのか

将棋の子 (講談社文庫)

将棋の子 (講談社文庫)