雷句誠 『金色のガッシュ!!』

別の部分で最近の漫画界の話題を独り占めしている雷句誠ですが、彼の初の長編連載漫画『金色のガッシュ!!』が完結しました。単行本前33巻で、目立ったストーリーの破綻や中だるみもなく完結させたその構成力は、非常に高く評価されてしかるべきでしょう。雷句誠は、藤田和日郎の弟子なのですが、長編少年漫画をきちんと終わらせる構成力に関しては、師匠をも凌ぐものがあったのではないかと思います。

ガッシュは、100人の魔物が魔界の王の座をめぐって戦いを繰り広げるというバトルものでした。目的がはっきりとしていますし、基本的には他の魔物との戦いの繰り返しで話を進められるので、ストーリーの基本線がシンプルで、まとめやすかったのだろうと思います。基本的には、新たな敵と出会い、戦いを繰り返すという反復的な物語進行なのですが、ガッシュが記憶を失った理由とガッシュと瓜二つの魔物という謎を引っ張ることで、終盤までのストーリーに軸を作り、途中石版編、ファウード編など、大きな物語を挿入することで、単なる戦いの反復にならないようメリハリがつけられていました。

また、雷句誠はキャラクターを使い捨てにしないで、出会ったり、戦ったりしたキャラクターとガッシュや清麿の関係を丁寧に積み重ねていました。最終巻の33巻で、個々のキャラクターの性格やキャラクター同士の関係を丁寧に描いた成果が、最大限に発揮されていました。

金色のガッシュ!!』は、友情・努力・勝利を軸にした物語ということで、少年漫画の王道を行く漫画でしたが、このような奇を衒わない熱い少年漫画が、これほど人気を博すというのは、やはり少年漫画の王道には普遍的魅力があるからなのでしょう。

ただし、この漫画が、極めて長大であるにもかかわらず、きちんと構成とテーマが考えられており、きれいに完結しているところは、いかにもドラゴンボール後の少年漫画であり、現代的なところだと思います。ドラゴンボール後の少年漫画の特徴は、一つは『ジョジョ』的な多彩な能力によるゲーム的な戦闘の導入であり*1、もう一つは最初から大長編になることを前提としてテーマや物語構成を用意することだと思います。

この二つの特徴は、『ONE PIECE』、『NARUTO』、『鋼の錬金術師』、そして『金色のガッシュ!!』などの少年誌の看板クラスのバトル漫画が共通して備えているものです。もちろん、能力バトルの複雑さや力のインフレ抑制の度合い、また物語構成の複雑さや一貫性の度合いは作品によって異なるわけですが、『ドラゴンボール』的な戦闘の反復による際限のない強さのインフレと物語と作品の一貫性の破綻を避けながら、長期連載を続けるために、これら二つの方策を導入したことは、これらの作品に共通しているように思います。*2

いずれにせよ、『金色のガッシュ!!』は、作品の質的にも、人気的にも、近年で最も成功した少年漫画の一つであり、雷句誠さんの漫画家としての能力は疑いもなく非常に高いものがあると思います。そのため、今回の騒動が雷句さんの漫画家としてのキャリアを損なうことなく、彼が今後も優れた作品を生みだしてくれることを、私は願って止みません。


金色のガッシュ!! 33 (少年サンデーコミックス)

金色のガッシュ!! 33 (少年サンデーコミックス)

*1:http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20080626/p1

*2:個人的には、ゲーム的バトル漫画の代表である『HUNTER×HUNTER』は、物語やテーマの一貫性を欠いているため、どちらかというと行き当たりばったりというジャンプ漫画の伝統を引き継いでいると思っています。