メルヴィル『代書人バートルビー』

国書刊行会の『バベルの図書館』の中の一冊『代書人バートルビー』を読みました。前書きはボルヘスということで豪華です。

内容は、ある法律事務所に雇われたバートルビーという男が、最初はきちんと仕事をしていたのに、次第に「しない方が良いのですが I would prefer not to.」と言って主人公の命令を拒絶するようになり、最後は全く仕事もしなくなり、何を頼んでも「しない方がよいのですが」と拒絶し、事務所に居座り続けたので、結局強制的に施設に叩き込まれ、そこでも何もせず、食事もしないので死んでしまうという話です。

バートルビーという男は、仕事上の上司部下という関係、労働そのものを拒絶するだけでなく、生きるということ自体を拒絶する究極的なアナーキストです。彼にとって、活動すること、生きることには何の価値もなく、そのため彼は、何もしないことによって、緩慢な自殺をしたと言えます。ただし、彼の全てを拒絶する態度は非常に強固なものなので、あらゆる生理的欲求を理性で統御し、意図的に無為に過ごし、鉄壁の意志の力によって自らを死に至らしめた、哲学的自殺者と考えることも可能です。

バートルビーの行動は極端も極端なので、ある種不条理で、奇妙な読後感がある作品ですが、労働に日々喘いでいる人などは、「しない方が良いのですが I would prefer not to.」と言うバートルビーの気持ちは、実感として分かるところがあるのではないでしょうか。

「Project Gutenberg」で全文が読めます。

http://www.gutenberg.org/etext/11231


幽霊船 他1篇 (岩波文庫 赤 308-5)

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