萩尾望都『残酷な神が支配する』

萩尾望都の『残酷な神が支配する』の文庫版の最終巻を読みました。前の部分をずいぶん前に読んだので、大分話を忘れています。

ジェルミとイアンは互いに惹かれ合い、愛し合うと同時に、その愛故に苦しみもします。この物語では、ジェルミの苦しみは何らかの特別な出来事や人によって解消されるのではなく、何でもない日常の中で時を経ることで、次第に薄められていきます。これは、カタルシスがなく、明確な結論がないというはっきりしない終わり方と言うことですが、時が経つこと、日常の雑事の中で忌まわしい記憶が風化していくというのは、非常に現実的であると感じました。

残酷な神が支配する』は、萩尾望都のキャリアの中でも屈指の名作であり、彼女が歳を取っても、依然として作家として衰えていないことを示した凄い作品だと思います。


残酷な神が支配する (10) (小学館文庫)

残酷な神が支配する (10) (小学館文庫)