伊藤剛さんによる「キャラ」と「キャラクター」

既にキャラクター分析の古典としての地位を確立している伊藤剛さんの『テヅカ・イズ・デッド』(NTT出版、2005年) ですが、初音ミクのキャラクター的側面を捉えるためには、井手口さんが利用していた東浩紀さんのデータベース理論と共に、参照することが必要な本だと思います。

伊藤さんは、「キャラ」と「キャラクター」を弁別し、以下のように定義しています。

先ず、「キャラ」は以下のように定義されています。

多くの場合、比較的に簡単な線画を基本とした図像で描かれ、固有名で名指しされることによって(あるいは、それを期待させることによって)、「人格・のようなもの」としての存在感を感じさせるもの (95頁)


それに対し「キャラクター」とは以下のように定義されています。

「キャラクター」とは、「キャラ」の存在感を基盤として、「人格」を持った「身体」の表象として読むことができ、テクストの背後にその「人生」や「生活」を想像させるもの (95-96頁)


伊藤さんによれば、「キャラ」とは「キャラクター」に先だって、何か「存在感」「生命感」のようなものを感じさせるもの、「前キャラクター態」とでもいうべきものです。(95頁)

伊藤さんは、以上のような定義を行った後、宮本大人さんによる「キャラクター」の六要素を参照しながら、もう一度「キャラ」あるいは「前キャラクター態」が何かを定義していきます。

宮本大人さんによれば「キャラクター」の要素は以下の六つになるそうです。(110-111頁)

  1. 独自性
  2. 自立性・擬似的な実在性
  3. 可変性
  4. 多面性・複雑性
  5. 不透明性
  6. 内面の重層性

伊藤さんは、この六つの要素のうち5と6を欠いたものが「キャラ」であると考えています。そして、手塚治虫を境にして、1〜4までの要素から成る「キャラ」あるいは「前キャラクター態」が、六つの全ての要素を備えた「キャラクター」になったという歴史的発展を設定しています。


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