Linkin Park とEvanescence のPV と日本

去年から、『Kill Bill vol.1』『Last Samurai』『Lost in Transration』と、アメリカで日本を舞台にした映画が連続して出てきていますが、PV でも日本を意識したものが出てきています。ドイツの映画、音楽市場は、アメリカの影響が非常に大きいので(逆に言えば自国のポップカルチャーが凄く貧弱だとも言えます)、アメリカのメジャーな映画や音楽は、そのまま入ってきます。今回は、最近日本絡みで面白いPV があったので、それらを紹介してみます。


一つ目は、アメリカのヘヴィーロックバンドの代表格であるLinkin Park の新PV 「Breaking The Habit 」です。この曲も基本は、キャッチーなメロディーとヴォーカルのシャウトといういかにもLinkin Park らしいサウンドなのですが、(多分)生ドラム+打ち込みでリズムが作られているので、いつもよりリズムが複雑かつ軽快で、少し目新しい、テクノロジカルな感じに仕上がっています。このテクロジカルな雰囲気が、CG を多用した、無機質なアニメーションと良く合っていると思います。

このPV を制作したのは、日本のアニメーションスタジオであるGONZOです。Linkin Park のPV には、確か以前ガンダムのプラモデルが出てきたことがあったので、メンバーの中に、日本のアニメが好きな人がいるのだろうと思います。


こちらにいると、日本のポップカルチャー、特に日本の漫画やアニメが、徐々に浸透しつつあるし、結構クールなものとして受け入れられつつあることを実感する機会が多いです。

たとえば、こちらでは、日本ではあり得ないことですが、日本の美少女アニメのキャラクターがプリントされたT-シャツを、お洒落な男性や女性が着ていることがあります。彼らは、そのような美少女アニメのキャラクターが、日本でどのように見なされるかという文脈を知らないので、ファッションの一要素という本来とは全く別の文脈で利用することができるのでしょう。

もちろん、日本のアニメは子供向けを除けば(子供向けに関しては、完全に定着しています)、それほど浸透しているとは言えないと思いますが、浸透していないが故に、逆に希少性のある、クールなものと捉えられるという側面があるのではないかと思います。


二つ目に紹介するのは、去年世界中で大ブレイクを果たしたアメリカのライトゴスなヘヴィーロックバンドEvanescence の新PV「Everybody's Fool 」です。このPV は、ヴォーカルの女性であるエイミーが、CM のモデル役で、ピザや清涼飲料水、フィギュアなどを作り笑顔をして宣伝し、そんなのは嘘だと自己嫌悪して、自分の写真の載った雑誌を破いたり、洗面台のガラスを叩き割ったりして泣いているというものです。

このPV の中の一シーンで、彼女は、ピンクのショートカットのカツラをかぶり、制服を着て、嘘臭い笑顔を浮かべながら、フィギュアの宣伝をするのですが、この時に画面に大きく映し出されるのが、「買って!」「愛してっ!」「あなたの好きにしてっ!」という唖然とするようなストレートな宣伝文句です。ちなみに、これは英語ではありません。日本語でドーンと画面に出てくるのです。しかも、背景は、虹色のド派手なグラデーションなので、ピンクのカツラなどと相まって、なんとも嘘臭い、プラスティックな質感の画面になっていました。

しかし、ピンクのカツラ、制服、フィギュアという道具立ては、オタク的な二次元コンプレックスと一昔前の援助交際のイメージが、あちらの勘違いによってミックスされたもののようにも見えるのですが、同時にこういう道具立てを日本語のスーパーと共に使うのだから、PV 製作者などは、案外日本の文化に興味があるのかなとも思いました。

まあ、エヴァネッセンスは、日本でもかなり人気があるバンドなので、日本ファン向けのリップサービスなのかも知れませんが。全然リップサービスになってませんが。でも、あのプラスチックな画面の質感は、案外外から見たときの、日本のイメージとあっているのかもしれないと思わないことはなかったです。

http://launch.yahoo.com/artist/default.asp?artistID=1098798


それにしても、欧米に出ていく日本の若者文化が、オタク的なものに大きく偏っているというのは、よく考えるとおかしなことです。何故なら、オタク的なものは、日本では市民権を得ておらず、マイナーなものにとどまっているからです。しかし、狭いところで独自に発展し続けるマイナーなものであるからこそ、その外側から見れば、先鋭的なものに見えるということもあるので、日本におけるネガティブなイメージから解放された、日本独自のオタク文化が、クールなものとして受け入れられていくのは当然なのかも知れません。

90年代から続く長い不況と中国の急速な台頭により、日本の政治的、経済的な影響力は、ヨーロッパでは落ちている気がするのですが(ニュースでも日本絡みのものは、ほとんどやりませんし)、それと入れ替わるように、文化的な面での影響力が増しつつあるのは面白いと思います。欧米における、日本文化の受容のされ方などを検討すると、かなり面白そうな気がしますが、誰かやっていないのでしょうか?